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10月25日:脳環境が乳ガンを成長させる仕組み(10月19日号Nature掲載論文)

2015年10月25日
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様々な薬剤が利用できることから、転移乳ガンをある程度コントロールすることが可能になっているが、脳に転移すると薬剤が到達しないなど対応が一段と難しくなる。このため、乳がんの増殖を助ける力が何か脳という環境に存在するのではないかという可能性について研究が行われてきた。今日紹介するテキサス大学からの論文は脳のグリア細胞が乳がんの発現するガン抑制遺伝子の発現を抑えるメカニズムを解明した研究で10月19日号のNatureに掲載された。タイトルは「Microenvironment-induced PTEN loss by exosomal microRNA primes brain metasis outgrouth (微小環境由来ミクロゾーム中のマイクロRNA によるPTENにより脳転移巣の増殖が促進される)だ。この研究では乳がん患者さんの原発巣と脳転移巣の遺伝子発現を比較して、脳転移巣の7割に様々な増殖因子シグナルを抑制するPTEN分子の発現が低下していることを発見する。次にPTENが低いから脳転移するのか、脳転移したからPTEN発現が低くなるのかを調べ、脳環境、特にグリア細胞が乳がん細胞の増殖を促進することを見出す。著者らはこのPTEN低下がグリア細胞からPTENを抑制するマイクロ RNAがマイクロゾームを介して注入されることによるという仮説を立てる。突拍子もないように思えるが、この考えはガンと環境の相互作用の様式として今流行りの考えなので、特に驚くほどのことはない。まず、アストロサイトからPTENを標的にするmi17〜92をノックアウトしたマウスに腫瘍を移植すると、ガン増殖促進が見られなくなる。さらに、実際miRNA19aがエクソゾームに濃縮されており、がん細胞に入ってPTENを抑制することを確認している。PTENが低下すると増殖因子シグナルが亢進しガンが増殖しやすくなることは当然だが、他にもPTENにより都合のいい変化がガン細胞に誘導されないか調べ、CCL2と呼ばれる白血球遊走を誘導するケモカインの発現が上昇することを発見する。この結果ガンの周りに炎症が起こり、この炎症がさらにガンの増殖を亢進させること、そしてこの炎症を抑制するとガンの増殖を抑えることができることを示している。実際の患者さんで脳内炎症を抑制したり、エクソゾームの分泌を抑えて乳がんの脳転移を抑えられるかどうかは今後の研究が必要だ。ただ、もし脳自体が乳ガンの増殖を促進しているなら、特異的な治療法の開発ができるはずだ。その意味で期待につながる研究だと思う。

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