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10月27日:サルコイドーシス(Bloodオンライン版掲載論文)

2015年10月27日
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今日紹介するミュンヘン・ヘルムホルツセンターからの論文は、完全に現象論で終わってしまっている点から考えると、普通このホームページで取り上げない、はっきり言ってよくBloodが採択したと思える。ただ、研修医時代の思い出があるサルコイドーシスについての研究がしかもBloodに掲載されているというのを見て思わず取り上げた。あえて言えば個人的思い出を書き留める意味で取り上げることにした。タイトルは「Characterization of subsets of the CD16-positive monocytes: impact of granulomatous inflammation and M-CSF-receptor mutation (CD16陽性単核球:肉芽種性炎症とM-CSFの影響)」で、10月13日オンライン版としてBloodに掲載された。この研究の結果をまとめると、 1) CD16(FcγIII受容体)陰性の単核球から分化してくるCD16陽性の単核球をSlanと呼ぶ糖鎖抗原で明確な2種類のポピュレーションニ分けることができる。 2) Slan陰性ポピュレーションは抗原提示に必要な組織適合性抗原誘導に必要な遺伝子群を発現している。一方、陽性群は自然免疫刺激による活性化を受けたポピュレーションの特徴を持つ。 3) 肉芽種性慢性炎症の代表と言えるサルコイドーシスでSlan陰性ポピュレーションが上昇している。特に男性の患者で多い。 4) M-CSFの受容体を欠損したhereditary diffuse leukodystrophyの患者さんではSlan陽性ポピュレーションが欠損している。 になる。
ディスカッションから推察すると、活性化されたCD16陽性単球をさらにSlan陽性と陰性群に分けることができ、陽性群にはM-CSFのシグナルが必要である。一方、おそらく慢性肉芽腫性炎症に関わる刺激によりサルコイドーシスで上昇しているという結論だ。もともと女性に多いサルコイドーシスのうち男性患者でなぜこの細胞が増えているのかなど説明できていない点は多い。また、結核などの他の肉芽腫性疾患についても調べるべきだと思う。   ただこの論文を読んで私の研究生活の原点を思い出した。研修医の頃私の指導医だった泉先生のサルコイドーシス外来を手伝った。そのとき、肉芽腫性炎症は面白い研究対象になると思った。おそらく、京都時代に始めたリンパ節やパイエル板発生の研究はこの延長線上にあると思う。サルコイドーシスではリンパ球の中のT細胞が低下しているということで、すべての患者さんのリンパ球を分離してT細胞数を測定した。と言っても今のように抗体を使った検査ではなく、若い人には信じれないだろうが、羊の赤血球と結合するリンパ球をT細胞として算定した。その後蛍光抗体で細胞を分ける時代が来たが、病気の理解のために実に何でもやっていたのだと感慨が深い。この意味で、この病気は、細胞をともかく分画したがる私自身の原点にあるのだと今でも感じる。もう一つの原点がM-CSFだ。熊本大学で独立した研究室を持ったとき、当時助手の林さんたちの頑張りで、分子遺伝学ではど素人の集団がマウス大理石病がM-CSFの突然変異であることを示せた。このおかげで、研究費や認知度が高まった。そのとき、人でも同じ病気がないのか調べたが、人の大理石病にM-CSFシグナル異常で起こるケースはなさそうに思えた。その後林さんたちはこのシグナルの研究を続けたが、私自身は抗体を作る程度であまり深入りをせず、そのまま忘れていた。この論文を読んで、M-CSF受容体のシグナルが欠損すると、大人になって脱髄性の脳変性が進行することを知っておどろいた。おそらく、ミクログリアの機能異常だと思うが、大人になって発症するなど大変興味深い病態だ。もう一度勉強し直す気になった。個人的思い出だけでごめんなさい。

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