AASJホームページ > 新着情報 > 論文ウォッチ > 11月7日:肥満を防ぐ樹状細胞(10月20日発行Immunity掲載論文)

11月7日:肥満を防ぐ樹状細胞(10月20日発行Immunity掲載論文)

2015年11月7日
SNSシェア
京大に在籍した頃、当時助教授だった故横田君がId2遺伝子をノックアウトし、私たちが研究していたLTi(リンパ組織のインデューサー:誘導細胞)がナチュラルキラー細胞や、一部の樹状細胞とともにId2陽性細胞から分化してくることを発見し、私を驚かせた。その後、現理研の吉田君が3種類の細胞へ分化できる前駆細胞を特定し、試験管内で3種類の細胞をすべて誘導して見せた。特にナチュラルキラー細胞と樹状細胞に分かれる前駆細胞の存在から、樹状細胞がキラー活性を持てもいいのではと考えたのを思い出す。しかしこれらの話を更にたどると、熊本大学医学部の教授になる頃に私のカミさんが樹立した様々な血液系の細胞と相互作用する前脂肪細胞株ST2に行き着く。この熊本・京都と続く長い話のまるで逆の話が今日紹介するイスラエル・ワイズマン研究所からの論文で10月20日号のImmunityに掲載されている。タイトルは「Perforin-positive dendritic cells exhibit an immuno-regulatory role in metabolic syndrome and autoimmuneity (パーフォリン陽性の樹状細胞はメタボリックシンドロームや自己免疫病の調節する役割を持つ)」だ。この研究の主役はパーフォリン陽性の樹状細胞だ。パーフォリンはキラー細胞の細胞を殺す働きを担う分子で、京都時代の話から考えると樹状細胞の一部がキラー活性を持っても私たちには不思議はない。この研究では少し凝った方法でパーフォリン陽性樹状細胞が欠損したマウスを作成し、この細胞が肥満やインシュリン抵抗性の糖尿病など、いわゆる脂肪細胞の異常によるメタボリックシンドロームを抑制している細胞であることを示している。これはパーフォリン陽性の樹状細胞が自己免疫性のT細胞の脂肪組織での増殖を抑制する機能を持つためで、この樹状細胞が欠損すると、自己免疫性のT細胞が増殖し、脂肪組織を刺激する。その結果、脂肪細胞由来の様々なアディポカインが産生され、いわゆるメタボリックシンドロームから肥満になる。すなわち、脂肪細胞もそれが支える血液系細胞によって様々な刺激を受けるという話だ。タイトルを一見すると、「なになに」と不思議そうな話だが、よく読んでみると教室の歴史が思い出されて懐かしい気分になる。少し残念なのは、私たちの研究の主役だったLTiの姿が脂肪組織には全くないことで、著者らが気にしていないのか、あるいは本当にないのか少し気になる。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

*


The reCAPTCHA verification period has expired. Please reload the page.