11月9日:抗CTLA4抗ガン治療と腸内細菌(Scienceオンライン掲載論文)
2015年11月9日
つい先日(11月5日)、寄生虫感染によるアレルギー性炎症抑制に腸内細菌叢が必要であるという研究を紹介したばかりなのに、今度はガンのチェックポイント治療にも腸内細菌が関わるという論文がScienceオンライン版に出ている。ちょっと流行りすぎではないかと警戒心が芽生えてきた。しかし臨床的には重要な指摘になる可能性があるので、鵜呑みにせず目を通しておくことにする。論文はフランス・ヴィルジュイフにあるガン研究所からの論文で「Anticancer immuneotherapy by CTLA-4 blockade relies on the gut microbiota (抗CTLA4抑制による抗ガン免疫療法は腸内細菌叢に依存している)」だ。タイトルにある抗CTLA4抗ガン免疫療法とは今流行りのガンのチェックポイント治療の一つで、キラー細胞や炎症細胞の反応が行き過ぎるのを抑えるCTLA4を抑制して、ガンに対する免疫を増強する治療で、我が国で悪性黒色腫に対して保険適用されている小野薬品のPD-1を標的にする治療もチェックポイント治療だ。この研究ではマウスに移植したガンに対する抗 CTLA4抗体投与の効果が、腸内細菌叢の存在しない無菌マウスを使うと見られないことを発見した。これは11月4日の寄生虫感染のアレルギーへの効果の話によく似ている。そこで抗 CTLA4投与後の腸内を調べてみると、上皮の増殖が亢進する一方、細胞死も上昇し、炎症性サイトカイン分泌が高まっている。すなわち、まず腸管内でリンパ球の活性が高まって免疫性の炎症が起こっている。また抗CTLA4投与直後から腸内細菌叢が大きく変化する。この腸内細菌叢の変化が抗がん作用に関わるかを調べるため、まずこれらの細菌に対するT細胞メモリーの状態を調べると、一部の細菌に対してT細胞メモリーが成立し、驚くことに、このT細胞を移植することでガンを抑制することができる。要するに、ガンそのものに対する免疫だけではなく、一部の腸内細菌に対しT細胞がガンの免疫を増強できるという結果だ。これが本当ならチェックポイント治療患者さんへの抗生剤の投与は慎重にならざるをえない。最後に、抗CTLA4療法を受けた患者さんの腸内細菌叢を3パターンに分類し、それぞれを無菌マウスに移植して抗CTLA4の抗がん作用を調べると、特定のパターンの腸内細菌叢を移植したときだけ抗がん作用が見られることを示している。すなわち、抗がん作用を媒介する細菌叢があり、抗CTLA4によりこれに対するT細胞免疫が亢進し、これ自身が腸内の炎症を誘導するとともに、抗がん免疫を増強するという結果だ。もしこの抗がん作用が、著者たちが一つの可能性としてあげているように、腸内細菌が分泌するペプチドとガン抗原が似ているために起こっているとしたら面白いが、この研究では証拠は示されていない。非特異的免疫亢進である可能性も十分ある。実際、様々な細菌成分をガンの治療に使うということは古くから行われてきた。今後チェックポイントを外して、このような治療の復活を目指す研究も出てくるのではないだろうか。他にも、同じ現象はPD-1抑制治療でも見られるのだろうか。印象では見られないのではと思うが、二つの治療法の差異を知る意味でも面白いと思う。思い返すと、無菌マウスは免疫反応が一般的に弱いことが昔から指摘されていたように思う。私のような老人から見ると、現在のフィーバーも旧い課題の研究が新しい衣をきて続いている気がする。
細菌成分をガンの治療に使うということは古くから行われてきた。今後チェックポイントを外して、このような治療の復活を目指す研究も出てくるのではないだろうか。
→腫瘍免疫学の源流=コーリーToxinですから、細菌も何らかの重要な関与をしてそうです。