11月18日:人間はいつからハチミツを使っているのか?(11月12日号Nature掲載論文)
2015年11月18日
これまで考古学は新しい科学的手法の導入のたびに大きく変化してきた。アイソトープの年代測定に始まり、今ではアイソトープの比を用いて、古代の人の食べ物や住んでいた場所まで推測が可能になってきた。それに加えて、古代DNA配列の解読は当時の住人の身体的性質や関係を教えてくれる。これまでわが国では「考古学は歴史学か人類学か」などの議論が行われてきたが、おそらく馬鹿げた議論で「考古学」は人類の過去についての科学として位置付けられていくだろう。今日紹介するブリストル大学を中心に欧州全体で進められた共同論文は石器時代にハチミツが使われていたかどうかを科学的に検証した研究で11月12日号のNatureに掲載されている。タイトルは「Widespread exploitation of the honeybee by early neolithic farmers (ハチミツの利用は新石器時代前期には広く行われていた)」だ。例えば熊のようにハチミツを探して食べる動物もいるし、そもそもハチミツが何千年も保存されていることはありえない。そんな状況で、いかに人間が生活の中でハチミツを利用していたことを証明するかがこの研究の課題だ。たしかにハチミツは保存されないが、幸い蜜蝋に含まれる脂肪成分は長期に保存されているようだ。研究の中心になったのはブリストル大学の有機地球科学部門で、古代の有機物の分析が専門だ。研究では微量サンプルから、ガスクロマトグラフと質量分析器を組み合わせて、蜜蝋に含まれるアルカンなどの複雑な脂肪酸を特定する技術を開発して、新石器時代の陶器に蜜蝋の痕跡が残っていないか調べている。ギリシャ・ローマで蜜蝋が陶器の水漏れを防ぐ目的で使われていることをヒントにすると、多くの陶器に蜜蝋の痕跡があるということは、明らかに生活の中でハチミツが使われていたという証拠になる。さて結果だが、蜜蝋の痕跡が見つかった最も古い陶器はトルコ、アナトリア地方のチャタル・ヒュユク遺跡から出土した陶器で、今から9000年前になる。ただこの遺跡で蜜蝋が検出できる陶器の数は少なく、検出された脂肪酸も特異性に難がある。結局、遺跡に残る蜂の巣の絵を合わせて、実際に生活に使っていたと結論している。まさに、文理融合の典型だ。加えてもう少し後、8000年前のトルコのトプテペ遺跡には複数の陶器に蜜蝋が見つかることから、アナトリア地方では新石器時代前期からハチミツが生活に使われていたと結論していいだろう。その後、8000年前ぐらいから急にヨーロッパ全土にハチミツの利用は広がり、中石器時代になるとハチミツ利用の北限デンマークに到達してしている。この背景には当然気候変化も存在する。この研究では、ヨーロッパだけでなく、北アフリカにもハチミツ利用が進んでいたことを明らかにしている。話はこれだけで、何だということになるかもしれない。しかし、典型的な従来の考古学の対象である陶器と化学を組み合わせた新しい文理融合型考古学の重要性を教える研究だ。考古学は若かったら、やってみたい分野の一つになってきた。