11月23日:外洋魚の保護色(11月20日号Science掲載論文)
2015年11月23日
数の限られた職業的科学者だけでなく、一般の人も参加して科学を新しく作り直すことの重要性を説いた本にMichael Nielsenの「Reinventing Discovery」がある。この本では、主に科学者側の問題を、分野外の科学者や一般の人が参加して解決する話が紹介されているが、このようなcollective intelligenceは、科学者が思いつかない、あるいは無視している素朴な疑問を科学にリクルートするためにも重要だ。今日紹介するテキサス大学からの論文はプロの仕事だが、私には考えもつかないがダイビングを楽しむ人なら誰でも持つ素朴な疑問を扱った研究だ。タイトルは「Open-ocean fish reveal an omnidirectional solution to camouflage in polarized environments (外洋の魚は偏光環境でカムフラージュするために全方向的解決策を持っている)」だ。色とりどりのサンゴ礁の魚は目を楽しませてくれるが、しかしサンゴ礁という環境で身を守り、また認識し合うために時間をかけて進化してきたはずだ。事実外洋に住む魚はと考えると、確かに色彩に乏しい。この研究では、銀色一色に見える外洋に棲む魚(この研究ではアジ科の仲間が対象になっている)にも進化で獲得された保護色があるのではないかという問題が検討されている。外洋の表層を回遊する魚にとって、青い海が環境になる。釣りをする人ならよく知っているが、この環境は単純に見えて、実は太陽光とその偏光で視覚的に複雑な背景を形成している。そこで、外洋に棲むアジ科の魚は実際にこの偏光に富む環境に対する保護色を持っているのか、鏡と散乱板をコントロールにした時の魚の見えやすさを特殊な写真機で調べている。期待通り、同じアジ科の魚でも水辺に住む魚と比べると、外洋に棲む魚は周りの光に溶け込んで見えにくいことを確認している。すなわち、銀一色に見えても、カムフラージュ能力を進化させている。さらに、太陽の位置や見るアングルなどを変化させて調べ、かなり様々な光の条件でこのカムフラージュが機能することを確認している。最後に、このような光環境でのカムフラージュを可能にする構造を追求し、グアニンプレートレットと呼ばれる皮膚に重なって存在するグアニンが板状に結晶化した構造が、上からの光と横からの光を別々にうまく他方向に散乱させて保護色になっていることを突き止めている。一見楽しいだけの仕事に見えるが、この保護色の起源をグアニンプレートレットと特定できると、保護色研究としては将来先をいく研究になる気がする。面白ついでに、最小の昆虫を扱った紹介しておこう。10月にZooKeysに発表された最小の昆虫は何かについてのモスクワ大学からの論文で、結論はScydosella musawasensisが現在計測された中では最小で、大きさは0.3mmであるという話だ(http://zoobank.org/E38CA5AE-0C65-45D0-9116-E74A1E889BDE Äi0)。しかしこんなサイズの虫をどうして探せばいいのか、人間の注意力とは素晴らしいものだ。私が顧問をしているJT生命誌研究館にもぜひ展示したい。