これについては当日ゆっくり議論することにして、今日は生理学の基礎研究から生まれたパーキンソン病のディスキネシアを抑える新しい可能性について述べたアメリカノースウェスタン大学からの論文を紹介する。タイトルは「M4 muscarinic receptor signaling ameliorates striatal plasticity deficits in models of l-dopa-induced dyskinesis (M4ムスカリン受容体の刺激は線条体での可塑性の欠損を改善しl-dopaにより誘導されるディスキネジアモデルの症状を改善する)」で、11月18日号のNeuronに掲載されている。線条体では、ドーパミン性とコリン性の刺激がバランスをとることで意思通り手や足が動くのを調節している。ドーパミン産生細胞が変性するパーキンソン病ではこのバランスが崩れ、震えや筋肉の動きが硬くなる。この症状を理解する鍵は線条体に存在する有棘神経興奮の長期抑制(LTD)と増強(LTP)を調節するドーパミン受容体であることがわかっていたが、それ以外の刺激についてはまだよくわかっていなかったようだ。この研究では、線条体を切り出したスライスを用いた試験管内の生理学実験系で有棘細胞のLTDとLTPを調べ、このバランスに関わる神経刺激物質を調べている。手法は極めてオーソドックスな生理学だが、目的の神経を特定したり操作するために様々な遺伝子改変技術を使っている。詳細を全て省いて結論だけを述べると、M4ムスカリン受容体刺激が有棘細胞のコリン作動性のLTDを促進し、ドーパミン作動性のLTPを抑制することを明らかにした。この結果に基づき、パーキンソン病モデルでM4ムスカリン刺激の効果を調べ、有棘細胞が示す異常なLTPを抑制できることを突き止めた。最後に、M4受容体を活性化させるPAMによって、パーキンソン病の患者さんがL−Dopaを服用したときに示すディスキネシアが抑制できることを示している。実際の論文は、プロの生理学で、幹細胞研究者とは頭の中が違うと思わせる実験が行われているが、最後に患者さんの問題を解決するところまでトランスレーションが進んだのはさすがだと思うし、嬉しい。これも早く治験を進めてほしい結果だ。
11月27日:パーキンソン病のディスキネジア(不随意運動障害)の生理学(11月18日号Neuron掲載論文)
2015年11月27日
先日発表されたiPSを用いた再生医療工程表の見直しは、自分が治療を受けられるのはずっと先だと思っていても、結果を心待ちにしていたパーキンソン病の患者さんを失望させているようだ。私たちのAASJでも、来られた患者さんはとりあえず京大を紹介して、治療の可能性を待つよう手配してきた。ずいぶん前に、最初の工程表作成に関わった私から見たとき、今回の見直しの周りで進んでいる状況は、治療開始が大幅に遅れることを予感させる。山中さんがノーベル賞をもらったこと以外に、これまでと何が変わったのかを含め、この状況については12月4日午後7時から緊急にニコニコ動画を使って、パーキンソン病の患者さんや神戸の難病連の方たちと分析をしたいと思っている(http://live.nicovideo.jp/watch/lv243264737)。最初の工程表作成に関わったとき、iPS研究の中心研究者から聞こえるのは安全性の確認の話ばかりだった。そんな状況を見て、当時再生医学実現化プロジェクトの座長だった私は、大阪大学の岸本先生から、「要するに「危ない技術で実用化は先の先や!」ということやな!」と言われたのを覚えている。
これについては当日ゆっくり議論することにして、今日は生理学の基礎研究から生まれたパーキンソン病のディスキネシアを抑える新しい可能性について述べたアメリカノースウェスタン大学からの論文を紹介する。タイトルは「M4 muscarinic receptor signaling ameliorates striatal plasticity deficits in models of l-dopa-induced dyskinesis (M4ムスカリン受容体の刺激は線条体での可塑性の欠損を改善しl-dopaにより誘導されるディスキネジアモデルの症状を改善する)」で、11月18日号のNeuronに掲載されている。線条体では、ドーパミン性とコリン性の刺激がバランスをとることで意思通り手や足が動くのを調節している。ドーパミン産生細胞が変性するパーキンソン病ではこのバランスが崩れ、震えや筋肉の動きが硬くなる。この症状を理解する鍵は線条体に存在する有棘神経興奮の長期抑制(LTD)と増強(LTP)を調節するドーパミン受容体であることがわかっていたが、それ以外の刺激についてはまだよくわかっていなかったようだ。この研究では、線条体を切り出したスライスを用いた試験管内の生理学実験系で有棘細胞のLTDとLTPを調べ、このバランスに関わる神経刺激物質を調べている。手法は極めてオーソドックスな生理学だが、目的の神経を特定したり操作するために様々な遺伝子改変技術を使っている。詳細を全て省いて結論だけを述べると、M4ムスカリン受容体刺激が有棘細胞のコリン作動性のLTDを促進し、ドーパミン作動性のLTPを抑制することを明らかにした。この結果に基づき、パーキンソン病モデルでM4ムスカリン刺激の効果を調べ、有棘細胞が示す異常なLTPを抑制できることを突き止めた。最後に、M4受容体を活性化させるPAMによって、パーキンソン病の患者さんがL−Dopaを服用したときに示すディスキネシアが抑制できることを示している。実際の論文は、プロの生理学で、幹細胞研究者とは頭の中が違うと思わせる実験が行われているが、最後に患者さんの問題を解決するところまでトランスレーションが進んだのはさすがだと思うし、嬉しい。これも早く治験を進めてほしい結果だ。
これについては当日ゆっくり議論することにして、今日は生理学の基礎研究から生まれたパーキンソン病のディスキネシアを抑える新しい可能性について述べたアメリカノースウェスタン大学からの論文を紹介する。タイトルは「M4 muscarinic receptor signaling ameliorates striatal plasticity deficits in models of l-dopa-induced dyskinesis (M4ムスカリン受容体の刺激は線条体での可塑性の欠損を改善しl-dopaにより誘導されるディスキネジアモデルの症状を改善する)」で、11月18日号のNeuronに掲載されている。線条体では、ドーパミン性とコリン性の刺激がバランスをとることで意思通り手や足が動くのを調節している。ドーパミン産生細胞が変性するパーキンソン病ではこのバランスが崩れ、震えや筋肉の動きが硬くなる。この症状を理解する鍵は線条体に存在する有棘神経興奮の長期抑制(LTD)と増強(LTP)を調節するドーパミン受容体であることがわかっていたが、それ以外の刺激についてはまだよくわかっていなかったようだ。この研究では、線条体を切り出したスライスを用いた試験管内の生理学実験系で有棘細胞のLTDとLTPを調べ、このバランスに関わる神経刺激物質を調べている。手法は極めてオーソドックスな生理学だが、目的の神経を特定したり操作するために様々な遺伝子改変技術を使っている。詳細を全て省いて結論だけを述べると、M4ムスカリン受容体刺激が有棘細胞のコリン作動性のLTDを促進し、ドーパミン作動性のLTPを抑制することを明らかにした。この結果に基づき、パーキンソン病モデルでM4ムスカリン刺激の効果を調べ、有棘細胞が示す異常なLTPを抑制できることを突き止めた。最後に、M4受容体を活性化させるPAMによって、パーキンソン病の患者さんがL−Dopaを服用したときに示すディスキネシアが抑制できることを示している。実際の論文は、プロの生理学で、幹細胞研究者とは頭の中が違うと思わせる実験が行われているが、最後に患者さんの問題を解決するところまでトランスレーションが進んだのはさすがだと思うし、嬉しい。これも早く治験を進めてほしい結果だ。
1日も早く治していただきたい、がんばってください。
高橋先生からも改めて患者さんの立場で頑張るというコメントをもらっています。