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12月3日:図鑑から計算される鳥の羽色の進化(11月19日号Nature掲載論文)

2015年12月3日
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熱帯雨林を歩く楽しみの一つは様々な羽色をした鳥に出会えることだ。写真は今年エクアドルで出会ったスズメ目のフウキンチョウの一種アオバネヤマフウキンチョウだが(写真を撮ると人に見せたくなるのが常だ)、このパターンをなんとか説明するのも科学の使命だ。このフウキンチョウは一夫多妻でメスは地味だ。したがって、一般的にオスがメスを獲得するため美しい羽色を獲得すると言われている。もし個別のパターンを説明したいなら、鳥の視覚からこのパターンがどう見えるのかを知るところから始める必要があるだろう。まだまだ難しそうだ。今日紹介するニュージーランド国立数学研究所からの論文は、メスを巡っての競争だけでなく、鳥の羽色に影響のある要因を数理的に割り出そうとした論文で11月19日号のNatureに掲載された。この研究の鍵は、鳥の羽色のパターンをオス・メス別々に取り込み、オスとメスの差を色の派手さにとらわれず一つの指標で数値化する方法の開発だ。こうして調べると、メスが派手な鳥はほとんどおらず、派手なのはオスであるのがわかる。しかし同時に、オスもメスもほとんど同じ色彩を持っている鳥も数多くいることもわかる。この基礎データに今度は鳥の習性との相関を重ねて、羽色の進化に関わる要因を調べている。これにより、例えばオス・メスの羽色が大きく違う種のサイズは小さく、気候の影響が強く、渡りの習性とも関わることがわかる。こうして計算すると、やはり一番大きく影響するのは相手をめぐるオスの競争で、この影響でメスはますます地味に、オスはますます派手になる。一方体や羽の大きさに比例して羽色指標も上昇する。他にも渡りの習性、熱帯気候も羽色に影響することが計算される。まとめると、オスのメスをめぐる競争だけでなく、他の要因も羽色に影響するという結論だ。結論が当たり前すぎて、狐につままれているような気がする論文だが、図鑑をスキャンして、それを数値化する作業だけでNatureの論文にしたのは頭がさがる。PCがあれば、高校生でもできるだろう。誰もが当たり前と納得していることでも、科学にするための手続きとは何かを教えてくれる面白い論文だと思う。一番大事なのは、現象から明確で実験可能なquestionを抽出することだ。あとは論文を書く訓練をすればいい。高校生が、金をかけずにトップジャーナルを狙って論文を書く時代が来れば我が国の科学も安泰だ。
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