AASJホームページ > 新着情報 > 論文ウォッチ > 12月6日:腸内細菌叢へのメトフォルミンの作用(Natureオンライン版掲載論文)

12月6日:腸内細菌叢へのメトフォルミンの作用(Natureオンライン版掲載論文)

2015年12月6日
SNSシェア
生活習慣病と腸内細菌叢の研究が盛んに行われている。それぞれの論文を個別に読んでいると、なるほどと納得することが多いが、これまでの研究が同じ結果に収束するのかいつも心配になる。今日紹介するドイツ、フランス、デンマークを中心とした国際共同研究は、おそらく同じ懸念から始まったと思える研究で、独立に行われた2型糖尿病の腸内細菌叢についての結果を検討し直している。タイトルは「Disentangling type 2 diabetes and metformin treatment signatures in human gut microbiota(ヒト腸内細菌叢に見られる2型糖尿病とメトフォルミン治療の特徴を明らかにする)」で、Natureオンライン版に掲載された。この研究では、デンマーク、スウェーデン、中国で行われた糖尿病の腸内細菌叢を調べた別々の調査結果を、同じ統計数理の手法で解析しなおした、いわばメタアナリシスだ。したがって、研究内容を完全に理解するためには、使われている多変量解析などの数理を完全に理解する必要があるが、これが私の最も苦手な分野であることは先に断っておく。すなわち、データの解釈を自分の目で再吟味するということができず、著者の結論を鵜呑みにしていることになる。それでも3つの独立した研究を調べ直すという研究目的は重要で、イントロダクションに述べられているように、これまで発表された論文から、一致した結論を導くことは難しかったようだ。この研究が対象にした3調査も、全てをまとめた上で分析すると、2型糖尿病に明確に相関する特徴を掴むことは難しい。結局、腸内細菌叢は食事を含む様々な条件による影響が大きく、糖尿病という身体条件の寄与は大きくないという結果だ。もちろん同じ糖尿病患者さんでも様々なステージがあり、受けている治療も異なる。次に、これらの条件のうち腸内細菌叢に相関性が高いものを探索して、メトフォルミン服用による腸内細菌叢の変化が、全ての調査で認められることを発見する。この変化の主役となる細菌種を探すと、全ての調査でIntestinibacterという種類が低下しており、中国の調査を除いて、大腸菌が上昇していることが明らかになった。この結果は、メトフォルミン服用により多くの患者さんで起こる下痢などの副作用の原因の一つが、大腸菌の腸内での選択的増殖であることを示唆している。一方、同じ大腸菌により、短鎖脂肪酸が分泌されることで、インシュリンに対する反応性が改善するなど糖尿病の代謝に好影響を及ぼすことから、メトフォルミンの効果の一部は腸内細菌叢を介しているのではないかという結論だ。当然のことながら、メトフォルミンを服用している正常人はいないので、今回の結果は2型糖尿病というよりメトフォルミン服用の腸内細菌叢への効果を示しただけのように思う。私が面白いと思ったのは、糖尿病、正常にかかわらず、中国人で大腸菌の比率が高く、メトフォルミン投与によって逆に比率が下がる傾向だ。これがアジア人の特徴なのか、中国の食生活の結果なのか是非調べる必要がある。また、もし大腸菌の選択的上昇がメトフォルミンの副作用の主因なら、この副作用は中国人では問題にならないことになる。この点についても、もう少し突っ込んだ議論が欲しかった気がする。しかし、腸内細菌叢の変化を完全に把握することの困難がよく理解できる論文だった。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

*


The reCAPTCHA verification period has expired. Please reload the page.