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12月14日:パーキン分子と心筋分化(12月4日号Science掲載論文)

2015年12月14日
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パーキンとは文字どおり、パーキンソン病の原因遺伝子の一つとして今年亡くなった慶応大学清水信義先生らにより遺伝子が単離された分子だ。遺伝子が単離された後も、なぜこの分子が欠損すると黒質のドーパミン産生細胞が変性するのかについてはよくわかっていなかった。しかし最近になって、このパーキンが細胞質内のタンパク分解を担う複合体の構成成分の一つで、ピンク1と呼ばれる分子により活性化され、異常なミトコンドリアを分解し正常なミトコンドリアに置き換える過程に重要な働きを持つことが明らかになってきた。今日紹介するワシントン大学からの論文はこのパーキンが心筋細胞の分化にも役割を演じていることを示した研究で12月4日号のScienceに掲載されている。タイトルは「Parkin-mediated mitophagy directs perinatal cardiac metabolic maturation in mice (パーキンによるマイトファジーは周産期マウスの心筋代謝の成熟に関わる)」だ。実はパーキンは心臓にも発現していることが知られていたが、パーキン遺伝子の突然変異を持つ患者さんで心臓が悪くなるという所見がないのであまり研究されていなかった。このグループは、心臓に異常が出ないのは他の機構で代償されているからではないかと考え、思い通りの時期に心臓でパーキン分子の機能を低下させられるマウスを作成して調べると、周産期心筋でのミトコンドリア成熟が阻害されることを突き止めた。次に、この異常を生化学的に調べ、心臓ではピンク1がMfn2分子をリン酸化してパーキンとの結合を誘導し、異常ミトコンドリアを分解する過程が障害されていることを明らかにした。さらにMfn2活性化型を導入するとピンクの刺激なしにパーキンによるミトコンドリア分解が起こること、またリン酸化できない形のMfn2を導入すると、パーキンの活性化が抑制されることを確認している。最後に、リン酸化ができない突然変異型のMfn2を生まれた後すぐに誘導できるマウスを用いて、この経路が新生児期にミトコンドリアをただ分解するだけでなく、新しいタイプに置き換え、生後の新しい環境に即した代謝システムを持つ新しい心筋にプログラムし直すのに必要であることを細胞学的に示している。まとめると、生後の一時期、心筋にも神経と同じパーキン経路が働いており、心筋代謝をプログラムし直しているという結論だ。一見心筋細胞の代謝に限定された仕事のように見えるが、心筋でのパーキンの生化学がこのように明らかになると、神経系でのパーキンの働きと詳しく比較することができる。パーキンの変異があっても心臓の正常発生を支持している代償的メカニズムを明らかにすることで、同じメカニズムをパーキン変異による黒質細胞の変性阻止に適応できるかもしれない。この経路を神経と心筋で詳しく比較した研究がさらに進むことを期待したい。

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