12月16日:潜在ヘルペスウイルスを活性化するメカニズム(12月9日号Cell Host & Microbe紙掲載論文)
2015年12月16日
単純ヘルペスウイルス(HSV)は大型のウイルスで、皮膚や粘膜に感染して、誰もが経験したことのある皮膚、口内に水疱(水ぶくれ)を起こす。痛みは強いが、健康な人なら1−2週間で消える。問題は、感染したウイルスの一部が神経内に潜在し、高齢になってから抵抗力が弱まったりすると新たに活動を始め、帯状疱疹を引き起こすことで、ウイルスの増殖を抑える特効薬アシクロビルなどが開発されるまでは、失明の原因になったり深刻な問題だった。ただ神経の中に眠っているウイルスが再活性化されるのかよくわかっていなかったようで、免疫機能が落ちるからなどと適当に説明されていた。今日紹介するノースカロライナ大学からの論文は末梢神経内に潜むヘルペスウイルスが活性化される初期過程を解析した研究で12月9日号のCell Host & amp; Microbeに掲載された。タイトルは「Neuronal stress pathway mediating a histone methyl/phosopho switch is required for herpes simplex virus reactiveation (単純ヘルペスウイルス再活性化には神経ストレスにより誘導されるメチル化ヒストンからリン酸化ヒストンへのスウィッチが必要)」だ。ヘルペスウイルスには80近い遺伝子がコードされており、再活性化には多くの独立した過程が組織化されて起こる必要がある。これまでの研究でこれらの過程は幾つかの段階に分類されている。この研究では、この最初の段階に的を絞っている。そして、最初の引き金として神経ストレスを媒介する分子としてよく知られているJNKに狙いを定め、JNK活性化とウイルス活性化の最初に発現するVP16分子の誘導までのシグナルを解析している。いろいろ実験はやっているが、結果をまとめると次のようになる。神経細胞にストレスがかかり、幾つかの分子を経てJNKが活性化されると、JNKがウイルスプロモーターに集まり、そこで遺伝子の発現を抑制していたヒストンを直接リン酸化して、初期に活性化されるウイルス遺伝子特異的に転写を活性化するという結果だ。これまでわかっていなかったヘルペス活性化の初期段階を解明した重要な貢献だと思う。残念ながら、これがわかってもストレス段階でウイルス活性化を防ぐのは難しそうだ。というのも、JNKは様々な細胞で働いており、活性を止める薬剤はあっても、ヒトに投与するのは憚られる。当分は、これまでと同じように患者さんに無理をしないよう注意を促す以外に対策はないだろう。この研究の重要性は、これまで知られていたキナーゼに加えてJNKが直接ヒストンのリン酸化による転写活性化を誘導できることを示した点だ。この研究ではウイルス遺伝子の活性化を見ているが、ひょっとしたら他の遺伝子も同じように制御されているかもしれない。このメカニズムがヘルペス特異的なのか、他の遺伝子活性化にも関わるのか、今後重要な課題になるだろう。