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12月20日 自閉症・統合失調症マウスを作成できるか?(1月6日号Neuron掲載論文)

2015年12月20日
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今Silberman著のNeurotribesという、8月に出版された本を読み終わろうとしているが、自閉症という疾患概念がどう形成されたのかを知りたい人にとってお勧めの本で、ぜひ邦訳を望む。私にとって最も印象深かったのは、Aspergerを除くと、自閉症概念形成を担ったのが、 Kanner, Franklなどの東欧出身のアメリカに脱出したユダヤ人で、さらに一般にこの疾患を認知させたRainmanの主役Dustin Hoffmanも東欧出身のユダヤ家族に生まれた俳優だったことだ。本の内容とは全く無関係(?)の枝葉末節の話だが、フロイドを思い起こすと、ユダヤ人の能力が変に気になった。もちろん21世紀、自閉症や統合失調症研究に大きな位置を占めるようになったゲノム研究についてはこの本では扱われていない。これまでも紹介してきたが、自閉症や統合失調症と関連するゲノム領域が続々発見され、これまで双子の研究から想定されていた疾患の遺伝性の根拠が徐々に明らかになっているが、発見された遺伝子変異が病気の発症に至るメカニズムについてはまだまだ納得いく説明はない。これは動物モデルがないからだが、複雑な神経疾患を動物で再現するのは至難の技だと素人の私でも思う。それでも、遺伝子によっては動物モデルが疾患の理解に役立つ場合もあるようで、今日紹介するマサチューセッツ工科大学の論文は、発症に関わることが明確な単一遺伝子変異をマウスに導入して脳機能の障害を再現した研究で、1月6日号のNeuronに掲載された。タイトルは「Mice with Shank3 mutations associated with ASD and Schizophrenia display both shared and distinct defects(自閉症や統合失調症と関連している異なるShank3遺伝子変異を導入したマウスは共通の症状とともに、変異特異的症状を示す)」だ。Shank3遺伝子はシナプスで信号を受ける側の膜受容体を準備する時に重要な働きをする気質となる分子複合体の一つで、精神発達遅延を伴う自閉症を持つ兄弟に発見された自閉症型変異(A型としておく)と、15−16歳で統合失調症を発症した兄弟に見つかった統合失調症型(S型としておく)が見つかっている。この研究では、A型とS型の変異を持つマウスを作成し、その行動、生理学、病理学を比べた研究だ。結果は期待以上に様々な症状を示している。詳細を省いて結果だけをまとめると、
1) A型変異では遺伝子発現がほとんどなくなっているが、S型変異では短いShank3分子が発現している。
2) A型変異を持つマウスは線条体のシナプス結合が発達期から障害されるが、S型は前頭前部でのシナプス結合が障害される。
3) 行動で、母親から離した時の反応。他のマウスへの興味など社会性が障害され、毛づくろいなど皮膚に傷がつくまで続ける。
4) 本を読んだ後で面白いと思ったのは、他のマウスと出会った時、その存在を全く意に介さないという症状が両方のマウスで見られることだ。自閉症の診断基準の一つに、他人がいないかのように通り過ぎるというのがあるが、マウスでも調べる系があるようだ。
5) シグナルを受ける側のシナプスで受容体の濃度が減少し、神経スパインも減少することから、行動や生理学的以上の基盤が確かにシナプス結合異常にある。
これ以上詳しく述べても仕方ないだろうが、同じ分子の異なる場所の変異でこれほど違った症状が出ているのを見ると、期待できる動物モデルが出来た気がする。これまで、自閉症や統合失調症と関連付けられた遺伝子変異は100を越すだろう。また、自閉症と言っても症状は多様だ。しかし、これらに他の疾患で見られない共通の障害が存在することも確かだ。この共通性と特殊性を考えるには、いいモデル動物ができたのではと期待する。

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