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12月24日:脳血管関門を破る努力(1月6日号Neuron掲載論文)

2015年12月24日
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一昨日、海馬での記憶成立が、炎症時に分泌されるTNFαにより刺激されたアストロサイトにより阻害されることを示した論文を紹介した(http://aasj.jp/news/watch/4602)。多くの読者は、TNFαが原因ならリュウマチなどの炎症性疾患の治療に使われている抗TNFα抗体を使えば治療可能ではないかと考えられたことだろう。残念ながら抗体薬の血液から脳内への移行は他の組織と比べて極端に低い。これは、脳血液関門と呼ばれる機構が存在するためだ。脳を血中に入ってくる様々な物質から切り離して恒常性を保つための合理的な機構だが、抗体治療のためには厄介な関門だ。関門を全部開けてしまうと脳の恒常性は保てない。従って脳に入れたい抗体だけ特異的に脳へ移行させられないかという研究が現在も続けられている。この目的にもっともかなった仕組みとして期待されているのがトランスサイトーシスと呼ばれる機構で、血管の内側から外側へ内皮細胞を通して物質を運ぶ分子だ。一番よく研究されているのがトランスフェリンで、昨年1月この機構を利用した脳血管関門を破る努力を紹介した(http://aasj.jp/news/watch/998)。今日紹介する老舗のバイオベンチャー(もう武田薬品より売り上げが大きいことからベンチャーと呼べないかもしれない)ジェネンテックからの論文はトランスフェリンより優れたトランスサイトーシスの標的を発見したという論文で1月6日発行予定のNeuronに掲載されている。タイトルは「Discovery of novel blood brain barrier targets to enhance brain uptake of therapeutic antibodies (治療用抗体の脳への取り込みを促進するための血管脳関門の新しい標的の発見)」だ。研究の手法は単純で、脳血管に選択的に発現している細胞表面分子に対する抗体を作成し、その中から静脈に注射した時、脳に速やかに移行できる抗体を探索するという順序で研究を行っている。実際には、脳血管内皮をFACSを使って純化し、他の組織の血管内皮には発現していない細胞表面たんぱく質を網羅的にリストして、それぞれに5種類の抗体を作って、その脳への移行を調べる方法を行っている。大学の若手の研究室では到底太刀打ちできない物量戦術だ。しかし単純なほど結果は明確で、この中からCD98hcという分子に対する抗体の移行がもっとも効率がいいことを発見する。重要な結果はこれだけで、あとは半分がこの抗体、もう半分がアミロイドβに対する抗体のキメラ抗体を作って、この方法でアミロイドβに対する抗体も脳内移行させて将来治療に使えることを示している。前回紹介した研究はロッシュ、今回はジェネンテックと、企業が着々と抗体治療の可能性を広げようとしていることがよくわかる論文だ。次は腸管内皮を超えて血中に入る抗体(ミルクに混ぜて飲む抗体薬)を開発して、抗体薬をもっと安い身近なものにする研究が進むのではと期待している。
  1. 橋爪良信 より:

    細胞内ターゲットへ如何に薬剤を到達させるかの観点で、ちょうどペプチド性阻害剤の経粘膜吸収性について、修飾法を調査していたところでした。
    この論文も参考に読ませていただきます。

    siRNAや抗体についてトランスフェクション試薬を用いて細胞内活性をみている例、ならびに様々な試薬は商業的に入手可能なのですが、、、『たとえある薬剤がビトロにおいてき強力な活性を示しても、薬効を発揮するためのターゲットまで送達されなければ、決して薬にはならない』
    医薬開発は薬物動態が勝負だと実感する瞬間です。

    1. nishikawa より:

      全く同感です。

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