今日紹介するOregon Health and Science UniversityとIcahn School of Medicine at Mt Sinaiの医師とジャーナリストが共同で出した意見論文は、少し異なる個別と全体の問題を問うた論文で、1月6日号のBritish Medical Journalに掲載された。タイトルは「Why cancer screening has never been shown to “save lives” – and what we can do about it(どうしてガン集団検診は未だかって生命を救ったという証拠がないのか、これに対して私たちは何ができるか)」だ。
しかし挑発的なタイトルだ。Wakefield論文の告発やタミルフ治験研究の告発からわかるようにBritish Medical Journalは反骨精神旺盛の雑誌で、常識と思われることに挑戦する論文や意見を大事にする編集方針を持っているようだ。私自身が集団検診についての論文を読むとき、肺ガンの集団検診だと、肺ガンの死亡率がどれだけ減ったのかに注目しても、他の原因で死亡したケースは頭の中から除外して考えるのが普通だ。しかしこの論文は、ガン検診でそのガンの死亡率が減少しても、その減少が全体の死亡率に影響しないと意味がないのと考えた。そこで、これまで発表されたガン集団検診の効果を調べた論文を、ガンの発見率や、ガンによる死亡率だけでなく、それ以外の病気も含めた死亡率全体を減少させる効果の観点から再検討している。
結果はタイトルにあるとおりで、確かにガンの集団検診は、対象となるガンの死亡率を下げる効果があるが、参加者全体の死亡率には全く影響ないか、逆に増えている場合がある。なぜ対象となったガンの死亡率は減っているのに、全体の死亡率は減らないのか?これはガンの死亡率が減った分だけ、他の病気の死亡率が増えていることを意味している。即ち、検診を受けることが、健康に逆効果になっているのではと疑問を投げかけている。
具体的には、検診で陽性と出ても偽陽性で、実際にはガンは発見できないことは多いが、このときの精密検査による事故、あるいは心配することでストレスが高まり他の疾患を併発してしまうこと、最悪の場合は自殺に至る場合もあると指摘している。
もし本当に全体の死亡率がガン検診で減少していないなら、確かに真剣に考える必要がある警告だ。この問題を決着させるために、著者らは400万人規模の研究を国が行い、方針をはっきり定めるべきだとしている。同じ研究を検診大国日本で行えるかどうかわからない。ただ、これまでの検診についての論文を再検討してみることはできるだろう。是非調べて欲しいと思う。
さて、この論文を知った上で、自分はどう判断するかだが、ガンの発見率が確実に高いなら、やはり来年も人間ドックに行こうと思う。