もっとも多くのガンで壊れているのが見つかっているガン抑制遺伝子はp53で、この機能を取り戻すことでガンを治療できるのではと期待されている。今日紹介するUCLAからの論文は突然変異で機能を失ったp53を矯正して働かせる薬剤開発の可能性を追求した研究で1月11日号のCancer Cellに掲載された。タイトルは「A designed inhibitor of p53 aggregation rescue p53 tumor suppression in ovarian carcinoma (p53の重合を抑制するようデザインした阻害剤は卵巣癌でのガン抑制機能を回復させる)」だ。
この研究では、卵巣癌で見られるp53突然変異の多くが機能を失うのは、p53が細胞質で沈殿してしまい、核へ移行が阻害されるため機能できないからだとする仮定に基づき、沈殿に至るp53の重合を阻害する分子をデザインして、変異p53を核内移行させることで突然変異を持っていてもガン抑制機能を発揮させられないか調べている。p53の構造に基づいて、重合を媒介するポケットに入るペプチドを設計し、このペプチドの中から沈殿阻害効果が高いペプチドをまず選んでいる。次に、このペプチドに細胞内に取り込まれるためのポリアルギニンを融合させてp53突然変異を持つガンと培養すると、ReACp53と名付けたペプチド薬剤は細胞に取り込まれ、沈殿を減らし、ガンの増殖を抑制することを示している。細胞レベルで効果のメカニズムを調べると、細胞死の誘導、細胞周期の停止、遺伝子発現などから確かにReACp53投与でp53の機能が回復していることを確認している。最後に、このReACp53を卵巣癌を移植したマウスに投与すると、p53突然変異を持つガンだけに抑制効果がみられる。さらに、卵巣癌末期のもっとも重大な問題、ガン性腹水モデルを作成しReACp53を投与すると、完全ではないものの腹水中のガン細胞の多くが細胞死に陥り、症状が改善することを確認している。 この研究の鍵は、突然変異型のp53の一部の機能を、分子重合阻害で回復できると狙いをつけたことで、その意味で今回の結果は期待通りだ。今後、悪性度の高い卵巣癌の治療の新しい治療法として発展できると思う。卵巣癌は内分泌系臓器の腫瘍の中ではもっとも悪性で、新しい治療がずっと求められている。P53というもっともメージャーな標的に手がついたということは、本当に嬉しい。