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1月18日:神経間のシナプス形成のメカニズム(1月14日号Cell掲載論文)

2016年1月18日
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  当たり前の事と思っている現象については、あまり詳しいメカニズムを知らずに済ましている事が多い。神経と神経の接合部、シナプスがその例だ。神経同士が特別の細胞学的構造を形成し、膜同士が接した接合部を作る。この接合部だけで、興奮した神経から神経伝達分子が分泌され、それが相手側の膜上にある受容体に結合する事で、神経興奮を相手側に伝達させる。これが学生時代に学んだ事だが、それから興奮性、抑制性で働く神経伝達因子や、接合部に伝達メカニズムを組織化するメカニズムなど、少しはアップデートしても、実際の知識は学生時代からほとんど変わっていない。
   今日紹介するデューク大学からの論文はそんな私にシナプスについての知識をもう一度アップデートする機会を与えてくれた。タイトルは「Astrocytes assemble thalamocortical synapses by bridging NRX1α and NL1 via hevin(アストロサイトはhevinを介してNRX1αと NL1を結合させ視床皮質シナプス接合を組み立てる)」だ。
  シナプスは細胞間の特殊な接着状態と考える事ができるが、シナプス特異的なメカニズムとして伝達側のシナプスに存在するneurexin (NRX)と刺激を受ける側のシナプスに存在するneuliginin(NL)がシナプス同士の接着を媒介するとともに、神経伝達に関わるメカニズムを組織化している事が知られていた。この論文のメッセージは単純明快で、NRXとNLが接着した神経伝達機構を確立するためには、アストロサイトが分泌するNRX,NLに結合して両者を特定の場所に集めるhevinと呼ばれる分子が必要だという結果だ。すなわち、シナプスの周りに存在する第3の細胞アストロサイトが、hevinを分泌してNRXとNLがシナプス端末の同じ場所に集まるよう、オーガナイザーとして働いているという結果だ。第3の細胞が分泌する分子が、2つの細胞の接着を媒介するという接着形式は、神経特異的で、しかもなぜアストロサイトがシナプス結合に必須かという事も明快に理解させてくれる。この論文では、視覚野が形成される際のシナプス形成をモデルに、確かにこの分子が重要な役割を演じているという機能的実験も示している。これまでの研究についてフォローできてはいないが、ただhevinをノックアウトしたマウスも生きているようなので、脳の大きなフレームワーク形成というより、より特異的なチューニングに関わっているように思う。とはいえ新しい知識を仕入れたという実感を得る事ができる論文だった。HevinはNRX,NLとともに突然変異が自閉症とも関連している事が知られている分子のようで、今後新しい視点で自閉症の病理を調べる可能性があるだろう。一つの論文、一つの単純なメッセージで、多くの事が学べる典型的仕事だと思う。

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