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1月22日:視神経の再生を段階的に突き詰める(1月14日号Cell掲載論文)

2016年1月22日
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長い軸索を伸ばす神経の再生は、医学にとって重要な課題だ。一昨年の10月、ポーランドと英国の研究者が切断後時間が経過した脊髄を走る神経軸索が回復できるという驚くべき1例報告を紹介したが(http://aasj.jp/news/navigator/navi-news/2331)、この結果は私たちの神経もかなりの再生能力を持っており、これを生かして再生を図ることも可能であることを示している。
  今日紹介するハーバード大学からの論文は、マウスの視神経を切断後の再生モデル実験系を用いて、細胞の能力を段階的に引き出すことで機能的神経接合を再建できることを示した研究で1月14日号のCellに掲載された。タイトルは「Restoration of visual function by enhancing conduction in regenerated axons (再生した神経軸索の伝導性を促進して視覚機能を回復する)」だ。
  この研究グループはこれまで一歩づつ、視神経再生を促進するための条件について明らかにしており、この仕事はこれまでの集大成といえる。まず、再生に必要なシグナルを抑制する分子を神経から取り除くと、視神経を切断しても軸索再生が起こり、1次視覚野とのシナプス結合が回復することを確認する。残念ながらシナプスは形成されても視覚は回復されないが、ここで諦めずミエリンで覆われていない神経の伝導性を高める薬剤(カリウムチャンネル阻害剤)で処理すると、視覚が回復することを突き止める。すなわち、ミエリンで伝導度を高めている分を薬で補えば視覚は回復するという結果だ。哺乳動物の視神経機能を再生させるのはできないというこれまでの考えを覆す結果だ。ただ、最初の実験は生まれて6日目のマウスで行っているので、次に成熟マウスでも同じことが可能か調べ、成熟マウスでも軸索再生が起こることを確認している。ここまでの実験では遺伝子操作を行っているので、次に遺伝子操作なしで再生を誘導する方法を探索し、オステオポンチン、インシュリン様増殖因子、そしてCTNFの3種類の増殖因子を切断部位に加えると、神経再生が起こることを見出している。すなわち、損傷後一定の期間内なら効果がある完全な再生因子を突き止めたことになる。最後に、最初神経伝達を高めるために使ったカリウムチャンネル阻害剤は副作用が強いので、局所に投与できる効果の高い新しい阻害剤を使って、同じ結果が得られることを示している。
   研究自体は特に素晴らしいアイデアがあるというわけではないが、段階的に神経再生の条件を詰めている点で好感が持てる研究だ。特に実際の臨床へ移るために常に気を配っており、うまくいけば人にも応用できるという期待を持たせる。今後、ミエリンを再生してカリウムチャンネル抑制剤を使わなくても機能が回復できるための研究が必要だろうが、8合目まできた感じがする。真面目な清々しい研究に思えた。

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