中でもアミロイドβの蓄積はアルツハイマー病の原因として研究が進んでいるが、神経変性との関わりでの研究が中心だ。今日紹介するマドリッド自治大学からの論文は少し毛色が変わって、アミロイドβの生理作用を調べた研究で1月18日号のNature Neuroscienceに掲載された。タイトルは「PTEN recruitment controls synaptic and cognitive function in Alzheimer’s model (アルツハイマーモデルマウスに見られるPTENの動員はシナプスと認知機能を調節する)」だ。
もともとアミロイドβが海馬シナプスの長期増強を抑制することが知られていた。このグループは、この抑制がアミロイドβがシナプスの長期抑制を誘導するからだとする仮説について研究していたようだ。この長期抑制についてはシナプスのAMPARからPTENを介するシグナルが関わることが知られていることから、研究ではまず家族性のアミロイドβを発現するマウスアルツハイマーモデルをPTEN阻害剤で処理することで記憶が回復することを突き止める。これをきっかけに多くの生理・病理実験を重ねて(全部割愛するが)、アミロイドβがAMPAR、PTENなどのシグナル分子を後シナプスに集め、このシグナルが活性化されることでシナプスの長期抑制が刺激され、最終的にシナプスの長期増強の抑制、記憶の低下が起こることを示している。これが神経変性へつながる道はよくわからないが、アルツハイマー初期から記憶障害が起こる一因として働いているという結果は説得力がある。
特にこの研究ではPTENとその下流のシグナル分子PDZの結合を阻害するペプチドを設計し、アルツハイマーモデルマウスに投与すると、記憶の回復が見られるというデータを示している。これをそのまま人にも応用できるかどうかはわからない。おそらく、アミロイドβ、AMPAR,PTEN,PDZと続くシグナル経路で、アミロイドβに特異的なシグナル阻害剤の開発が必要になると思う。しかし、神経変性よりは与し易い標的なので、新しい治療薬開発への期待は高まる。