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2月5日:食物アレルギーに対する防御(Scienceオンライン版掲載論文)

2016年2月5日
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  幼児の1割近くが何らかの食物に対してアレルギーを持つと言われている。ほとんどは成長とともに消失するが、一部の人は生涯食べ物に気をつけた生活を余儀なくされる。確かに食物といえども様々なたんぱく質抗原を持っている。特に、セルローズに守られたたんぱく質などは、小腸まで到達する可能性が高い。もちろん自分から見たとき、異物になる。逆に9割の人が食物アレルギーにならないのも不思議だ。この問題を解決するため、私がまだ免疫学会に所属していた頃から、無菌マウスだけでなく、抗原に全く触れていないマウスの作成が行われていたのを覚えている。今日紹介する韓国基礎科学研究所からの論文は、当時作成された無抗原マウスや無菌マウスを駆使して、正常幼児の成長過程で食物アレルギー発症が防止されるメカニズムを探った研究で、Scienceオンライン版に掲載されている。タイトルは「Dietary antigens limit mucosal immunity by inducing regulatory T cells in the small intestine (食物抗原は小腸で抑制性T細胞を誘導して粘膜免疫を抑える)」だ。
  この研究では最初から食物抗原が抑制性T細胞(Treg)を誘導することで、アレルギー反応を免れていると狙いを定めて研究している。まずアミノ酸、糖、脂肪だけで育て、固形食物を与えていない無抗原マウス、無菌マウス、そして一般のマウスの腸に存在するリンパ球を調べ、無抗原マウスで小腸のメモリーT細胞、およびTregが減少していることを明らかにしている。すなわち、固形食物由来の様々な抗原が腸管でのT細胞の動態を大きく変えることが明らかになった。次に母乳と固形食物の抗原性を調べ、不思議なことにミルクにはTregを誘導する抗原性はないこと、一方固形食物に含まれるたんぱく質により、寿命の短いTregが強く誘導されることを明らかにしている。おそらくこの差はミルクに含まれる抗炎症物質の性ではないかと結論しているが、今後さらに検討が必要だろう。最後にアレルギーを起こす卵白アルブミンに反応するT細胞を移植した後、経口的に与えた卵白アルブミンの効果を調べている。結果は期待通りで、無抗原マウスに卵白アルブミンを経口投与すると、Tregが強く誘導され、炎症やアレルギーの発症を特異的に抑えることがわかった。これらの結果から、成長期の食物はアレルギー反応を起こす抗原として働くが、それ以上に小腸でTregを誘導することで食物アレルギーを防ぐという結果だ。この結果に基づいて、普通のマウスで食物アレルギーを誘導する方法も開発している。実験モデルの段階だが、これからヒトでの臨床研究との対応が必要だろう。
   折しも、ドイツマーブルグ大学から新鮮なミルクに含まれているω3脂肪酸が喘息の発生を抑えているというコホート研究が報告されている(J. Allergy and Clinical Immunology オンライン版)。このようなコホート研究の結果を同じ実験系で確かめられ、食物アレルギーを防ぐ新しい食品が開発されることを期待する。

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