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2月13日:ヒルシュプルング病治療の可能性(Natureオンライン版掲載論文)

2016年2月13日
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実を言うと今カンボジアに来ていて観光に忙しく、しかも風邪気味で論文紹介記事をアップロードするのが遅れてしまった。とはいえ、Killing Fieldで有名になったカンボジアも、今は平和で、多くの観光客を惹きつけている。
  今日紹介するSloan & Kettering ガン研究所からの論文は、ヒトES細胞から腸管神経を誘導して、この神経細胞の発生異常による巨大結腸を示すヒルシュプルング病をなおそうとする試みで、治療へ向けたかなり重要な一歩を示した研究だと評価できる。タイトルは「Deriving human ENS lineage for cell therapy and drug discovery in Hirshsprung disease (ヒトES細胞から腸管神経を誘導してヒルシュプルング病の細胞治療と治療薬を発見する)」だ。
   ヒルシュプルング病は神経管由来の腸管神経細胞の増殖や移動能の欠損により、腸内の蠕動が起こらないため便の排泄がうまくいかず腸内に溜り、巨大結腸が起こる病気だ。腸内神経を再構築する以外に治療法がなく、腸内神経層の欠損した部分を手術で切除する以外の治療法はなかった。この研究ではCD49Dが腸管神経のバイオマーカーになることを突き止め、Sox10陽性、CD49D陽性細胞の試験管内誘導方法をまず決定している。私たちも他の細胞で同じことを行ってきたが、培養条件の決定が一番難しい過程だ。これでいいと妥協せずにこの研究でもほとんどの細胞が腸内神経の分化マーカーを発現する条件を決めている。次にこうして誘導された細胞が腸管神経として機能するかどうかを調べる目的でこの細胞の立体培養を4日間行い、大腸に移植すると、ヒトの細胞であるにもかかわらずマウス大腸の広い範囲に分布することがわかった。これに勇気付けられ、次にマウスのヒルシュプルング病モデルに移植して腸管の蠕動を再構成できるか調べている。この目的でマウス腸内神経の移動に必須であることがわかっているエンドセリン受容体(ENDRB)ノックアウトマウスの腸管に移植すると、組織に完全に統合されたとは言えないが、広く分布して腸管神経層を形成し、移植されたマウスは少なくとも6週は生き残れることが明らかになった。最後に、こうして確立したES細胞培養方法とマウスへの移植システムを用いて、神経細胞の機能に影響する薬剤をスクリーニングし、ペプスタチンAと呼ばれるタンパク分解酵素阻害剤の試験管内での全処置を受けたEDNCR欠損腸管神経細胞の移動能を部分的に回復させられることも明らかにしている
。  しかし、生後の腸管神経細胞の移植が一定程度効果があることは大きな朗報だ。この研究ではヒトES細胞由来の腸管神経細胞は組織学的には完全な構造をとるには至っていない。これはヒトとマウスの種の壁のせいでもあるし、生後の移植の限界かもしれない。しかし、生後の移植でも症状を軽くすることができる。種の壁がない場合さらに完全な神経叢形成が可能かもしれない。さらにおそらく胎児期に注射することも今後可能になるだろう。組織適合抗原をマッチさせたiPS細胞利用の重要な標的になるはずだ。一人でも多くの子供達の生活の質がこれで改善されることを願う。

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