今日はテレビや新聞など多くのメディアが、アトピーに対する新しい薬剤の開発に成功したという京大の樺島さんの仕事を報じていた。ただ、米アレルギー専門誌なる物をいろいろ探してみても論文が見つからなかったので、報道ウォッチはやめて、オリジナルな記事にする。
紹介したい仕事は、ヘルシンキ大学のPartanenさんらの仕事で、Proc Natl Acad Sci USAの9月10日号に掲載された (http://www.pnas.org/content/110/37/15145)。研究では、「胎教は可能か?」という、おそらく一般の関心の高い問いに挑戦している。実験は、胎生29週から誕生まで、フィンランド語ではほとんど聞けない母音を組み合わせた言葉に似た短い文章(タタタと言った3シラブル音)の様々な組み合わせを胎児に聞かせる。生まれた後で、胎教に使った音を少し変化させ、脳波で反応を見る。もし生まれる前に習った音を覚えていれば、その変化に気づくが、習っていない場合は聞き流すというわけだ。詳しい実験内容にはこれ以上深入りしないが、結論は予想通りで、間違いなく胎児期に聞いた言語様のパターンは記憶される。
ただ早とちりはいけない。今回の結果は、言語的パターンが脳内に記憶されることを示しただけで、それが役立つかどうかはわからない。言えることは、今回の結果を受けて今後この記憶を役に立つようにするにはどうすればよいかの科学的な仕事が始まるだろう。いずれにせよ、記憶可能である事が示されると、今後も様々な試みが続く可能性が予想できる。このような研究は一種の人間の脳の操作だ。ただモーツァルトを聴かせると言った思いつきとは違う、よく計画されたコホート研究が必要だろう。胎教については検証されていない話が多すぎる。実際書店も含め巷には検証されていない胎教アドバイスがあふれている。そんな中、48人の妊婦さんと対話を繰り返し、最終的に33人のボランティアを募って行われたこの仕事は価値が高い。勿論、胎教をすることはそれによって悪影響がでる可能性も織り込まなければならない。このような仕事は実際日本で可能なのか興味を持った。ご存じの方があれば是非教えてほしい。いずれにせよ、これも草の根コホートの一つだ。個人ゲノムが100ドルになると予想される今、最も重要なのは、人の生活の長期にわたる記録だ。
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