今日紹介するアメリカNIHからの論文は10年以上前のエボラ感染者からエボラウイルス感染細胞を除去することができる抗体を単離し、アカゲザルの感染抑制に成功した研究でSience express (サイエンスオンライン版)に2月25日掲載された。タイトルは「Progtective monotherapy against lethal Ebola virus infection by a potently neutralizing antibody (エボラウイルス中和活性が高い抗体を用いた致死的エボラウイルス感染に対する治療の確立)」だ。
研究では今回の西アフリカで流行したエボラウイルスではなく、1995年に発生したエボラ出血熱発症後幸いに治癒した患者さんの血清を調べ、10年以上経過した後でもエボラウイルスに対する高い抗体価を保っている患者さんを選んで、この抗エボラウイルス抗体の性状を調べている。
もちろん抗体価が高いと言っても、患者さんから大量の血清を調整することは難しいため、治療効果のある抗体を産生するB細胞を分離し、それが発現している抗体遺伝子を単離する戦略をとっている。この目的のため、末梢血のB細胞にEBウイルスを感染させ不死化させ、その中からエボラウイルスを中和する抗体を産生しているB細胞株を分離している。発病後11年後に抗体が血中に検出できるのは不思議ではないが、その抗体を作るB細胞が末梢血から得られというのは驚きだ。いずれにせよ、こうして分離したB細胞株の中から有望な抗体を作っている2種類のB細胞株を分離し、この細胞が発現している抗体遺伝子を特定している。2種類の抗体とも、エボラウイルスの感染性を中和し、さらにエボラウイルス粒子を発現している細胞を除去する活性を持っている。すなわち、治療用の抗体として望まれる性質を全て持っていることを明らかにしている。さらにこの研究では、これらの抗体遺伝子が出来てくる過程でどのように突然変異を蓄積したかを、変異が起こる前の遺伝子と比べて明らかにしている。最後に、エボラウイルスを感染させたアカゲザルを用いて、この抗体の効果を調べ、期待通りAb114と名付けた抗体を単独で投与することで、アカゲザルの発症を完全に抑えることに成功している。
特に目新しい戦略ではないが、この結果はエボラ出血熱のような治療方法が決まっていないウイルス感染に対して、以前の流行で生き残った患者さんの末梢血が重要な材料として将来の感染対策に大きな役割を果たせることを明らかにしている。同じような治療困難なウイルス感染症は多い。感染を生き抜いたヒトから治療抗体を揃える研究はかなり有望な方向性のように思う。