今日紹介するマサチューセッツ工科大学からの論文は培養細胞内の炭素がどの栄養成分に由来するか丹念に調べた研究で3月7日号のDevelopmental Cellに掲載された。タイトルは「Amino acids rather than glucose account for the majority of cell mass in proliferating mammalian cells (ブドウ糖よりアミノ酸が分裂中のほとんどの細胞の質量に貢献している)」だ。
研究では培養中の有機物(糖、脂肪、アミノ酸、核酸)の収支を正確にはかるとともに、C14アイソトープで標識した様々な栄養成分で細胞を培養し、その成分から細胞の質量の何パーセントができるのか調べている。結果は詳細にわたり、詳しく述べても仕方ないだろう。まとめてしまうと、タイトルにある通り増殖中の細胞の質量のほとんどは外部からのアミノ酸の摂取に頼っており、核酸は別として、ブドウ糖から新たにアミノ酸や脂肪を作ることはほとんどないという結果だ。これは、外部からできるだけ完成した栄養分を摂取して、細胞内で新たに合成することを避けることにより、合成したATPを節約し、多くの有機成分を細胞の分裂・増殖に回していることを示唆している。研究では、ブドウ糖やアミノ酸の細胞質量への取り込みの割合を、増殖中と静止期の細胞で比べたり、脂肪を外部から供給しない条件、すなわち細胞自ら脂肪を合成する必要がある条件で培養するなど、様々な条件で同じ実験を繰り返し、外部からの栄養成分の使われ方を調べている。細胞は必要なら有機分子を自分で合成するが、環境に栄養分があればそれを有効に使って、なるべく自己努力を減らして生きるようにできているようだ。
この結果は全て培養中の細胞での話で、細胞同士が複雑な相互作用を行う個体全体の代謝バランスを反映しているわけではない。ただ、これからの医学では細胞培養技術の革新が必要になる。私が卒業してから引退するまで、培地の栄養組成についてはほとんど変わっていないのではないだろうか。これは、培地開発が特定の細胞の増殖だけを指標に行われ、細胞内での代謝を詳細に調べたデータを利用してこなかったからだろう。今日紹介したような研究を基礎に、細胞にストレスのない培養法が開発されるのだろうと思う。