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3月28日:磁気遺伝学の応用(Nature オンライン版掲載論文)

2016年3月28日
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   我が国の研究助成政策はともするとテクノロジー開発を強調する傾向がある。はやぶさも、京コンピュータも、何をしたいからこの技術が必要かという点は後回しで、一般には技術競争の重要性が先に強調される。先日も批判したが、同じ傾向を光遺伝学を文科省が重点項目にしたことにも見ることができる。光遺伝学について言うと、我が国は開発者というより、消費者だ。とすると、脳高次機能研究のどの課題を21世紀、重点的に助成すべきかについての意図が明確にされないと、光遺伝学を使って論文が出ているグループを(通常はすでに力のあるグループだ)選んだだけで終わるだろう。
  開発についてみると、記録から刺激まで全て光を使う技術を開発したり、生きた動物の単一脳細胞のスパインを観察したり、あるいはクリスパーを使って光で転写を誘導したり、大きな可能性が広がり始めている。一方、光の様々な難点を克服する方法として、小さな力に反応するチャンネルに鉄と結合する分子を合体させ、磁力を使って特定の神経を調節できるようにした方法の開発が進んでいるようだ。どのチャンネルを使うかに工夫が凝らされているが、その一つを3月12日にここでも紹介した(http://aasj.jp/news/watch/4961)。磁力でのコントロールは、実験動物の行動の自由度が上げられることから流行るのではないかと思う。
   今日紹介するロックフェラー大学からの論文は、磁力を使って神経細胞を興奮させるだけでなく、抑制したり、変調させたりすることができ、それにより行動が変化することを示した研究でNatureオンライン版に掲載された。タイトルは「Bidirectional electromagnetic control of the hypothalamus regulates feeding and metabolism(視床下部を電磁気的に抑制したり興奮させたりすることで摂食行動や代謝を調節する)」だ。
  この研究では、以前紹介した論文とアイデアは同じだが、違ったチャンネル分子の開閉を磁気でコントロールできるようにして、血糖に反応してインシュリンの分泌を促し、摂食行動を調節する中枢である視床下部の腹側中部の細胞に導入している。この研究ではTRPV1分子がチャンネル分子として選ばれているが、突然変異を導入してチャンネル特異性を変化させ、神経興奮を抑制することもできるようにしている。この結果、磁場に晒してこの細胞を興奮させると、血中グルコースとグルカゴンが上昇し、インシュリン分泌が低下するとともに、摂食行動が促進する。一方、同じ細胞の興奮を抑制すると、インシュリンの分泌上昇とグルコースの低下がみられるが、グルカゴン分泌は変化しないことを示している。これらの実験では電磁波の照射が刺激に用いられているが、磁場でも同じように調節が可能であることも示している。
  効果のわかりやすい細胞をうまく選んで、おそらく一生を通して、繰り返し脳細胞のリモートコントロールが可能であることを示した点で、重要な研究ではないかと思う。
   2番煎じでも光遺伝学という文科省の決定が変わらないなら、これまでここで紹介した世界のトレンドの上を行く研究グループが我が国から発掘されることを願いながら、選考を見ていこうと思う。

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