今日紹介するケンブリッジ大学からの論文は4細胞期で細胞の運命の違いを誘導する分子を発見したという研究で3月24日号のCellに掲載された。タイトルは「Heterogeneity in Oct4 and Sox2 targets biases cell fate in 4 cell mouse embryo (Oct4とSox2の標的がマウス4細胞胚の細胞運命の方向性を決める)」だ。
この研究では2、4、8、16細胞期の細胞の遺伝子発現を個別に調べ、確かに多様性が4、8細胞期で著明に見られること、中でも多能性を決めているOct4,Sox2の支配を受ける遺伝子の発現に多様性が見られることを明らかにしている。このグループはこの遺伝子セットの中から、Cdx2と呼ばれるトロフォブラスト決定因子を支配するSox21に注目した。すなわち、多能性の内部細胞塊と、胚外組織を作るトロフォブラストの最初の分化にSox21が関わると考えた。実際、4細胞胚のそれぞれの細胞でのSox21発現量は大きく違い、必ず一個は発現が極めて低い細胞が存在するように分化していることがわかった。そこで、Sox21分子の発現を胚の細胞で阻害すると、その細胞はCdx2を強く発現し、不等分裂の頻度が落ち、トロフォブラストへ分化する確率が高まることがわかった。これは、受精卵分裂の初期から多能性細胞とトロフォブラストへの分化を誘導する変化がすでに存在していることを意味している。残る問題は、2回の均等分裂の間にどうしてこの差が生まれるのかだが、この研究では多能性細胞へと分化を誘導することが分かっているヒストンメチル化酵素CARM1がSox21の上流でその発現を誘導していることを示している。すなわち、CARM1が強く誘導されることでヒストンが変化し、多能性細胞分化に必要な遺伝子がOct4,Sox2に影響されやすくなると考えているようだ。しかし、では何がCARM1発現の差を発生させるのかについてはよくわかっていない。いずれにせよ、分化を一定の方向に誘導しつつも、決定してしまわないメカニズムの一つが明らかになったと思う。
これまで多能性の分化や維持については重箱の隅をほじくるほど研究が進んだと思っていたが、こんな分子がわかっていなかったとは驚きだ。読み始めた時、単一細胞遺伝子発現の仕事かと思ったが、それは最初だけで、あとは古典的な仕事で楽しめた。