今日紹介するカリフォルニア大学サンフランシスコ校からの論文はジカウイルスの感染過程のシナリオを提出する論文でCell Stem Cellの5月号に掲載予定だ。タイトルは「Expression analysis highlights AXL as a candidate Zika Virus entry receptor in neural stem cells (遺伝子発現分析によりAXL分子がジカウイルスが神経幹細胞へ侵入するレセプターとして働いている可能性が示された)」だ。
同じCell Stem Cell2月号にiPSから誘導した神経幹細胞を用いて、ジカウイルス感染により神経幹細胞が選択的に障害されることを示すフロリダ大学からの論文が掲載されたが、この研究ではまずジカウイルスが細胞内に侵入する時に使う受容体の特定から始めている。ジカウイルスが属するフラビウイルスの受容体についてはこれまでの研究で明らかになっているので、これらの遺伝子の発現をIPSを含む培養細胞や、胎児神経細胞で比べ、AXLが大脳皮質の細胞を作る元となるラジアルグリア細胞に強く発現していることを突き止めている。実を言うと話はこれだけで、ウイルス感染実験が行われているわけではない。ただ、AXLとフラビウイルスとの関係についてはすでに研究が進んでおり、発現だけからこの受容体が犯人と決めつけている。もしエディターをよく知らない著者が論文を送ったらリジェクトされるような論文だが、緊急であること、もっともらしいシナリオであることから採択されたのだろう。詳細は省いてシナリオを紹介すると次のようになる。 ジカウイルスは胎盤を通って血中に侵入する。すると、脳内末梢血管や、脳脊髄腔に直接突起を伸ばしているラジアルグリア細胞のAXL分子に結合し、これを利用して細胞内に侵入し、細胞死を誘導する。AXL自体からのシグナルも感染や細胞死に関わる可能性がある。この結果ラジアルグリア細胞の数が減ると、当然皮質の形成が侵され、小頭症が発症する。
研究では、マウスやフェレットのラジアルグリア細胞もAXLを発現していることから、今後感染実験に使えることも明らかにしている。
今後は、胎盤を通る過程、細胞内で増殖して細胞死が誘導される過程の研究が必要だろう。しかし、自分が研究してきた細胞を用いてすぐに緊急要請に応える素早い反応には恐れ入る。また、幹細胞研究者で最も用意が整っており、そのため今回の論文もCell Stem Cell に掲載されたのだろう。次はクリスパーの出番のような気がする。