先週、5月11日発行予定のCell Host & Microbeにジカウイルスについて2報の論文が発表された。一つはジカウイルスを感染させるマウスモデルを作成したというノースカロライナ大学からの論文で、タイトルは「A mouse model of Zika virus pathogensis(ジカウイルス病態解析のためのマウスモデル)」だ。これまで、ヒト幹細胞を用いたジカウイルス感染モデルは出来ていたが、病態解析には動物モデルが欠かせない。この研究では、様々なノックアウトマウスにウイルスを感染させる実験を行い、正常マウスはジカウイルスに感染しないが、ウイルス感染に反応してインターフェロン誘導などを制御しているIRF分子などのウイルス防御に関わるメカニズムを外しておくと、マウスにもジカウイルスが感染することを示している。さらに、正常マウスでもインターフェロン受容体に対する抗体で前処理することで、ウイルスを感染させられることを示している。この系を用いて、マウスの胎盤をジカウイルスが通過する過程の解明が進むだろう。この論文で面白かったのは、1)マウスのほとんどの臓器はジカウイルスが感染するようだが、最も深刻な症状は神経系で見られ、2)精巣のウイルス量は高いという結果だ。今後、性交渉による感染への考慮も必要だろう。 もう一つの論文は「Type III interferons produced by human placental trophoblasts confer protection against Zika Virus infection (人間のトロフォブラストで作られるタイプIIIインターフェロンはジカウイルスに対する防御)」というピッツバーグ大学の仕事で、ジカウイルスの胎盤通過の鍵になると思われるトロフォブラストへの感染が完全にインターフェロンで防御されているという結果だ。従って、実際の侵入経路を見つけるためには、試験管内ではなく、動物モデルでの検討が必要になるが、その意味で最初に紹介したマウスモデルは重要になる。もちろん、インターフェロンシステムを抗体で全てブロックするという戦略を使えば、サルを含む他の動物を使った胎盤通過実験ができるだろう。
とはいえ、これらの研究が身を結ぶのはもう少し先になる。エボラウイルスの時もそうだったが、さしあたっての問題に対応するためには公衆衛生学が重要になる。ジカ熱の場合、ウイルスを媒介する蚊を完全に退治することが急務だ。ヒトが住む場所では殺虫剤の噴霧、蚊が卵をうむ水たまりをなくすことが主な取り組みだが、今日最後に紹介するフロリダ大学からの論文では蚊の習性を利用してトラップに卵を産ませ、次世代を断つという戦略についての研究で、本当にいろんな実験が行われていることを実感する。タイトルは「Aedes albopictus (Diptera:culicidae) oviposition preference as influenced by container size and Buddleja davidii plants (ヒトスジシマカ(ハエ目)の産卵場所の選択は水槽のサイズとフジウツギにより影響される)」だ。
もちろんこれまで長い研究があるのだろう。ヒトスジシマカの習性から著者らは蚊がフジウツギの花を好むことを知っていた。そこで、野外で蚊が産卵する容器をおいて、どの容器に蚊が産卵するかを調べている。結論だけを述べると、フジウツギの近くに2リットルぐらいの容器をおいておくと、蚊が一番産卵するという話だ。まったく現象論で、蚊が引き寄せられるのは、視覚なのか、嗅覚なのかこれから調べる必要があるが、理屈はともかくやってみる価値が大いにある。