AASJホームページ > 新着情報 > 論文ウォッチ > 4月10日:組織再生特異的遺伝子発現(Natureオンライン版掲載論文)

4月10日:組織再生特異的遺伝子発現(Natureオンライン版掲載論文)

2016年4月10日
SNSシェア
   ゼブラフィッシュ再生研究をリードするグループの一つがKen Possのグループだが、これまではどうしても現象論的研究が多かった。それでも、マウスや人のモデルと比べると、ゼブラフィッシュは驚くべき再生能力を持っているため、我々では想像のつかない実験を示して、楽しませてくれている。もちろんゼブラフィッシュを使う利点は遺伝学を使える点だが、再生時特異的な現象の遺伝学は簡単ではない。今日紹介するデューク大学Ken Poss研究室からの論文は、よりオーソドックスに再生現象に関わる分子生物学的メカニズムを探ろうとする論文でNatureオンライン版に掲載された。タイトルは「Modulation of tissue repair by regeneration enhancer elements(再生時のエンハンサー領域を使った組織修復の調節)」だ。
   研究ではまず心臓とヒレの再生を誘導し、再生時に両方の組織で強く発現する遺伝子を探索している。その中で最も強く発現したのがレプチンで、マウスやヒトでは肥満の抑制に関わる重要な分子として研究されてきた。この研究ではなぜレプチンが再生に必要なのかについて深入りせず(面白いテーマだが)、再生時にレプチンの発現を上昇させるエンハンサー領域を探索し、アセチル化ヒストンの結合などを指標に、最終的に彼らがLEN(レプチンエンハンサー)と名付けた領域を特定している。この領域をマウスやヒトと比べると、すでに哺乳動物では大きく変化しており、我々が再生能力を失ったこと呼応する。しかしLENを使うとマウスの指や心臓でも再生時に遺伝子発現が上昇することから、今後再生組織の操作に使えるかもしれない。実際、この研究でも、LENを活性化する分子生物学は全く行わず、この領域を使った遺伝子操作実験に焦点を当てている。結果は当然といえば当然で、LENを使って様々な遺伝子を再生組織で発現させると、再生を止めたり、あるいは細胞の増殖を促進したりすることができることを示している。この結果は、今後の再生研究にLENが重要なツールになることを示している。   内容としてはこれだけで、このエレメントがどのように活性化されるのかなど肝心なところはわからないままだ。少しレフリーも甘いかなという印象がある。しかし、将来への材料としてはかなり期待が持てる。論文でも示されたように、再生組織特異的遺伝子操作のツールとなる。また、哺乳動物への進化の過程で、どのようにこのエレメントが変化したのを明らかにすることも重要だ。そして何より、このエレメントを使って、再生組織だけで遺伝子発現が誘導されるメカニズムを、ゼブラフィッシュだけでなく、マウスやヒトを使った細胞レベルの研究も可能だろう。不満は残るが、期待を持って将来の発展を見ていこう。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

*


reCaptcha の認証期間が終了しました。ページを再読み込みしてください。