今日紹介するアメリカ国立衛生研究所からの論文はまさにこの地道な努力がわかる研究でNature Communicationに掲載された。タイトルは「Chimeric 2C10R4 anti-CD40 antibody therapy is critical for long-term survival of GTO.hCD46.hTBM pig to primate cardiac xenograft (サルへのGTO.hCD46.hTBMブタ心臓移植の長期生着にとって抗CD40抗体治療は決定的に重要)」だ。
現在移植臓器の生着期間を伸ばすために、2方面から改良が進んでいる。一つは臓器の改変で、この研究では異種組織が最初に受けるアタックに関わる糖鎖抗原をノックアウト(糖鎖転移酵素ノックアウトGTOKO)、次に補体作用を抑えるためにヒトCD46遺伝子とトロンボモデュリン遺伝子のトランスジェニックブタを作成している。チャーチの論文からわかるように、この改良はCRISPRでさらに加速されるだろう。
一方免疫抑制だが、異種移植での拒絶反応の特徴は抗体反応の関与で、同種移植とは全く異なる免疫抑制法の開発が必要になる。この研究では移植前からCD20、抗胸腺細胞抗体、抗CD40を投与、その後維持療法として、ミコフェノール酸、プレドニン、アスピリンにCD40に対する抗体を用いたプロトコルを検証している。今回新たにテストされたのが、抗CD40抗体で、B細胞自体を殺すのではなく、B細胞の活性化を抑制する働きがある。
この研究では、糖転移酵素ノックアウト、CD46.TBM トランスジェニックと3重の遺伝子改変したブタ心臓をサルに植えて機能的生着を調べている。結果はめざましいもので、サルに移植したブタ心臓は1年生着させるのがやっとだったが、抗CD40維持療法を加えることで、最長900日の生着が可能になったという結果だ。実際には、900日目にCD40抗体投与をやめて、拒絶反応が再開することを示しており、頑張ればもっと長い期間生着すると思う。
ほとんど知らないところで、異種移植がもう一度実用化される日が近づいているのを実感した。