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4月15日:高齢出産と子供の成長(Population and Development Review 3月号掲載論文)

2016年4月15日
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   今日から2日に分けて、先入観を捨てて統計を見直すことの重要性を教えてくれる論文を紹介しよう。
  最初に高齢出産を取り上げる。
  女性の社会進出は結婚時期の高齢化と、それに伴う高齢出産の増加を伴う。例えば女性進出の先進国スウェーデンでは1/4の出産が35を過ぎてからだ。しかし、医者に限らず一般の人も高齢出産には様々な問題が付きまとうことを知っている。例えばダウン症の発症率、小児ガンの発症率、自閉症の発症率などは高齢出産で上昇することを示す論文が多く出されている。このため、これらの疾患統計をそのまま拡大して、高齢出産で生まれた子供は何らかの発達障害に見舞われることが多いという先入観が出来上がっている。しかし本当にそうだろうか?
  今日紹介する英国政治経済大学、人口統計学部門からの論文は、スウェーデンの人口調査を精査して高齢出産の成長への影響を調べた論文で、3月号のPopulation and Development Reviewに掲載された。タイトルは「Advanced maternal age and offspring outcomes: reproductive aging and counterbalancing period trends (母親の年齢と子供の成長:生殖年齢の高齢化とそれに対抗する時代の傾向)」だ。
  この研究が対象にしたのは、正常出産後の成長で、同じ家族に生まれた兄弟を比べる方法や、様々な社会的要因を補正して、できるだけ身体的高齢と子供の成長が比べられるように統計を取っている。従って、双生児を含む多胎出産だけでなく、一人っ子も全て統計から省いている。実際一人っ子で高齢出産になると、どうしても子供に多くの努力が注がれ、比較が難しくなる。また、高齢の方が経済的に豊かなことが多い。もちろんこの要因も加味して統計を取り直しているが、幸いスウェーデンは高福祉高負担の国で、教育は大学まで完全に無料だ。我が国と比べると、子供に貧富の格差が出ないように設計が行き届いた国で、両親の収入など影響は少なく統計が取りやすい。    このような条件で統計を取り直して明らかになったのは、正常に生まれ、成長した子供について調べれば、高齢出産だと身体能力や知能が劣るという思い込みは全く間違いであることがわかった。幾つかの結果を紹介しておく。
1) 同じ兄弟で比べた時、高校での学力テストの成績では出産年齢が35−39歳の子供が一番高い成績で、15歳から30歳まで出産年齢に応じて成績も上昇している。さらに、45歳以上の場合でも、低下は大きくない。一方、人口全体を対象に調べた場合、出産時の年齢の影響はあまり認められない。
2) 身長で見ると、45歳以上の出産では確かに低下しているが、特に高齢で成長が遅れるわけではなく、兄弟内で比べた時は30−34歳時の子供が最も高い。
3) 体力は40まであまり変化がないが、25−29歳時の子供が一番高い体力を示していた。 以上の結果は、確かに遺伝的異常のリスクは高まるが、それ以外は高齢出産でも子供の成長に大きな問題がなく、逆に学力や身長は30歳以降の子供の方が優れているという傾向があるという結果だ。
結論的には、高齢出産を恐れず子供を生めば良いという結論だ。
  残念ながら、子供の教育や食に大きな格差が生まれている我が国では同じ研究を行うことは難しいだろう。今のところはスウェーデンのような高福祉高負担で格差を減らそうとする社会体制からしかデータを取ることは難しい。とはいえ、高齢でも安心して子供を育てることができることは確かだ。
   このような論文を読むと、結婚適齢期、出産適齢期の存在を常識として振りかざし、議会で女性議員に「早く結婚して子供を産め」などと卑劣な野次を飛ばす議員のいる我が国の後進性に心が痛む。

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