このリズムは、高等動物に限らず、単細胞生物も含め広く真核細胞に見られる。すなわち現象自体は地球上の多くの真核生物で共有されているが、それを支える分子は多様で、例えば哺乳類の細胞ではこのリズムはBMAL1とCLOCKと呼ばれる分子からなる複合体で調節されているが、植物ではTOC1やCCA1など全く違った遺伝子が概日リズムを形成していることがわかっている。このような話から、私自身は、概日リズムのマスター遺伝子は進化の過程で大きく多様化したが、結局は下流で多くの遺伝子の転写調節を従わせることが、細胞の活動をシンクロナイズする唯一のメカニズムだと理解してきた。
今日紹介する英国医学研究協会所属の分子生物学研究所からの論文は、概日リズムは種を超えて共有されている代謝レベルのメカニズムに収束されるはずという信念に基づいた研究で4月21日号の Natureに掲載された。タイトルは「Daily magnesium fluxes regulate cellular timekeeping and energy balance (毎日繰り返すマグネシウムの流入が細胞の時間とエネルギーバランスを調節する)」だ。
読んでみると、この著者は最初からこの結果を予想して研究を進めていた印象がある。すなわち、真核生物共通のメカニズムは、イオンチャンネルの発現のリズムに収束すると予想し、ヒトの細胞と単細胞の藻類の細胞内イオン濃度を質量分析でまず調べ、カリウムやマグネシウム濃度が概日リズムを示すことを発見する。そして、その後の研究をマグネシウムに絞っている。最初からマグネシウムを選んだのは、マグネシウムがエネルギー代謝に関わることがわかっていること、細胞の生死への影響が比較的低いことなどが考えられるが、おそらく頭の中にマグネシウムがあったのだろう。
Mg/ATP-依存性の蛍光分子を導入してリズムをモニターする実験系を利用して、細胞内のマグネシウム濃度が変化すると概日リズムが狂うこと、Mg濃度が低下するとATP濃度が上昇し細胞の蛋白合成が高まることなどを突き止めている。
詳細を省いて結果をまとめると、概日リズムを形成するマスター分子は、あらゆる種でマグネシウムチャンネル分子の発現とリンクしており、転写レベルのリズムを、まず細胞内マグネシウム濃度の変化に、そして昼に高まるATPの濃度のリズムに変換している。このエネルギーのリズムのおかげで、エネルギーを必要とする細胞内過程は、概ね概日リズムの支配を受けるという結論だ。
これまでリズム形成に偏っていた研究も、例えば2013年3月24日に紹介した京大の岡村さんの研究や(http://aasj.jp/news/watch/3111)、今回の研究のように、あらゆる種に共通するエフェクターレベルの研究に移ってきた感がある。今後このメカニズムが、どれだけのリズムに従う変化をカバーできるのか、期待してみていきたい。