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毎日新聞9月24日記事(斉藤)難病:「HAM」発症メカニズム解明

2013年9月25日
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オリジナル記事は次のURLを参照してください。
http://mainichi.jp/select/news/20130924k0000e040162000c.html

HTLV-1は成人T細胞白血病を引き起こすレトロビールスで、病気の発見からウイルスの発見までほとんど日本で高月清先生を中心とする研究グループが進めた。また、今回の研究対象であるHTLV-1関連脊髄症は鹿児島大学の納光弘先生達によって発見された慢性の脊髄症で日本には3000人ぐらいの患者さんがおられることがわかっている。今回の聖マリアンナ大山野さん達の仕事は、この患者さんの脊髄液に白血球を惹きつける分子ケモカインの一つCXCL10が上昇していることを見つけ、次に試験管内の実験で、この上昇が、HTLV-1に感染したリンパ球が脳脊髄の中のアストロサイトと呼ばれる細胞に働きかけた結果である可能性を示した仕事だ。慢性神経炎症の治療として、リンパ球の脳脊髄内への移動を抑制する方法が注目されており、私たちのホームページでも京大薬学部発のフィンゴリモドという薬が多発性硬化症の特効薬として使われていることを紹介した。また、日本を始め世界中で、ケモカインやその受容体に対する抗体の効果を調べる臨床試験が行われており、対象の中には成人T細胞白血病も含まれている。とすると、この仕事も一つの治療の可能性を示す研究として考えられる。しかし、ここで述べられたメカニズムが実際に身体の中でもそうなのかはさらに検討を要する。また、場所が脳脊髄内であることも考えると、この結果が治療として確かめられるまでには時間がかかるだろう。 
   さて、毎日新聞の斉藤さんの記事だが、はっきり言って誇大広告的だ。論文についての紹介は、最後の部分を除いて問題はない。よくまとまっている。しかし、脊髄炎症のメカニズムについては、未だ想像段階であることがわかるよう記事にすべきだろう。そして最大の問題は最後の締めの文章で、「患者21人の血液に、CXCL10の反応を邪魔する物質を投与したところ、脊髄へ引き寄せられる免疫細胞の数が減り、炎症の慢性化を抑えることにも成功した」と書いたのは完全に間違っている。この研究での抗体の実験は全部試験管内の話で、あたかも患者さんの症状が軽減するかのような書き方をするのは戒めるべきだろう。可能性がないと言っているわけではない。ただ、本当にこの考えを治療に結びつけるには、多分長い臨床研究が必要だ。もし、この記事が他の情報に基づいて書かれたのなら、それについて明確に示すべきだろう。患者さんはいつも、明日新しい治療法が発表される可能性を待ち望んでいる。希望を示しても、混乱のないようにするのが最も重要だ。

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