AASJホームページ > 新着情報 > 論文ウォッチ > 5月5日:少し気になった臨床論文(5月3日号Pediatrics掲載論文、The American Journal of Cardiology掲載予定論文)

5月5日:少し気になった臨床論文(5月3日号Pediatrics掲載論文、The American Journal of Cardiology掲載予定論文)

2016年5月5日
SNSシェア
   最近純粋な臨床論文を紹介していない。自分が基礎医学だったせいもあるが、紹介したくなる気にさせる論文があまりなかったことも事実だ。そんな中でも、タイトルを目にするとちょっと気になるという論文は確かにある。今日はそんな2編の論文を紹介する。
   最初の論文はユタ大学産科学教室からの論文で、母親へのインフルエンザワクチンが生まれた子供に期待通り免疫力を付与しているという論文で、5月3日号のPediatricsに掲載された。タイトルは「Influenza in infants born to women vaccinated during pregnancy (妊娠中にワクチン接種を受けた母親から生まれた子供のインフルエンザ)」だ。
  もともとワクチンを全く信じないという一般の方は多い。特に妊娠中だと、何か問題が起こるのでは懸念する人の方が多いだろう。この研究ではユタ州のIntermountain Healthcare と呼ばれる施設で出産したお母さんにインフルエンザワクチン接種についての聞き取り調査を行った上で、生まれてきた子供のインフルエンザ罹患率を調べている。
   ユタ州でも予想通りワクチン接種率は5%以下と低かったが、H1N1流行が問題になった後25%ぐらいに上昇し、最近ではインフルエンザシーズンには5割以上の妊婦さんがワクチンを受けるようになっている。
  ワクチンの効果は的面で、出産後6ヶ月までに赤ちゃんが臨床的にインフルエンザと診断される率が、ワクチン接種をしていない妊婦さんの子供で0.37%であるのに対し、ワクチン接種したお母さんからの子供は0.13%、病院で治療が必要になる重症例の率はそれぞれ0.066%、0.013%と、妊婦さんへのワクチン接種は確実に子供をインフルエンザから守る。
  人間では、お母さんの抗体が胎盤を通しても、また母乳を通しても子供に伝わることはわかっていても、ここまで効果があるとは考えていなかった。インフルエンザワクチンによって母子ともに守られると結論していいだろう。
   もう一編のジェファーソン大学医学部からの論文は、米国でもガイドラインに書かれている治療が徹底されていないことが普通にあることを示す論文で、The American Journal of Cardiologyに掲載予定だ。タイトルは「Frequency of use of statins and aspirin in patients with previous coronary artery bypass grafting(冠動脈バイパス手術を受けた患者さんがスタチンとアスピリンを服用している率)」だ。
   冠動脈狭窄により狭心症などの症状がある場合、現在はステント手術が普及しているとはいえ、効果が長く持続することから、足の伏在静脈を使ったバイパスは現在も重要な治療法だ。これまでの研究で、術後スタチンとアスピリンを長期に服用することで移植血管の閉塞が防げることが明らかになっている。この研究では、381人の患者さんについて、バイパス手術後このガイドラインに従ってスタチンとアスピリン治療を受けているか、血中LDLはコントロールできているか、移植した血管は機能しているかを調べている。
  予想に反し、スタチンとアスピリンの両方を処方されている患者さんは50%にとどまっており、臨床的にも処方を受けていない患者さんは、特に新生血管の出来がよくないことが示されている。
  厳格な標準治療が行われるのかと思っていた米国でも、まだまだ医師主導のさじ加減が普通に横行しているのを知って驚いた。
  1. 中原 武志 より:

    この項だけでなく、先生の「論文紹介」を「中原武志のブログ」http://blogs.yahoo.co.jp/atlastakeshiで紹介させていただいておりますので、ご許可ください。
    よろしくお願いいたします。

    1. nishikawa より:

      紹介いただき感謝しております。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

*


The reCAPTCHA verification period has expired. Please reload the page.