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5月9日:母親の抗体が腸内細菌叢によるT細胞刺激を抑える(5月5日号Cell 掲載論文)

2016年5月9日
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  腸内細菌叢の成長と多様性が、宿主の健康維持に重要であることが広く認識されるようになり、この分野は急速に拡大している。しかし少し考えてみると、胎児が無菌状態で発生する以上腸内細菌は異物で、生後急速に腸内に入ってくるなら強い免疫反応が起り、腸炎に発展してもよさそうだ。しかし、実際には常在菌は通常は炎症の原因にならず、一種の共生関係が成立している。
   今日紹介するカリフォルニア大学バークレイ校からの論文は、母親がT細胞に依存しないで作る抗体が新生児の腸管内で細菌と反応することで、T細胞の反応を抑えていることを示し、この問題に一つの説明を与えている。タイトルは「Maternal IgG and IgA antibodyies dampen mucosal T helper cell responses in early life (新生児期に母親からのIgGとIgA抗体が粘膜T細胞の反応を抑える)」で、5月5日号のCellに掲載された。
  これまでも母親からの抗体が腸内で細菌叢が成長する際に強い炎症反応を防止する役割を演じていることが示唆されていた。しかし、分泌される抗体の代表であるIgAが欠損した人で新生児腸炎が見られるわけではないため、議論が続いていたようだ。この研究では、まずマウスが腸内細菌叢の2−3割に対して反応するIgG2b, IgG3抗体を持っており、特にIgG3はIgAより広い細菌に反応できることを発見している。この発見をきっかけに、この抗体の役割を追求したのがこの論文だが、詳細を省いて明らかになった過程を説明しよう。
1) 腸内細菌叢に反応するIgG2b, IgG3抗体は、バクテリアと直接B細胞が反応して、バクテリアの持つLPSなどの刺激にTLR2,TLR4を介して反応することで産生され、ヘルパーT細胞には依存しない。
2) これらの抗体を作るB細胞は、腸管の粘膜免疫に関わる腸間膜リンパ節やパイエル板で抗体を作る。
3) これらの抗体は、胎盤を通して、あるいは母乳を通しても胎児に伝わる。
4) 母親からの抗体が欠損した胎児の腸間膜リンパ節やパイエル板ではCD4陽性T細胞の数が選択的に上昇する。
5) このCD4+T細胞反応抑制にIgAも協力するが、IgG3,IgG2bが主役。IgMの関与は全くない。
6) 母親からの抗体なしに育った新生児は体重の増加が遅く、炎症性サイトカインが高い。
7) おそらく抗体によって細菌がリンパ節に移行するのを防ぐことで、T細胞の過剰反応を抑えているのだろう。
この研究もそうだが、逆に食物アレルギーの成立についての研究も、新生児期の腸内での免疫調節の重要性を物語っている。わが国でもこの分野が重点項目として選ばれたようだが、表面的な現象論ではなく、新しいメカニズムに迫る研究が行われ、そこから出た知見を活かして、子供を炎症やアレルギーから守ることのできる研究が行われるよう期待したいし、また成果について注視していこうと思っている。

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