今日紹介するドイツマックスプランク鳥類学研究所からの論文は後者の可能性を追求した研究でScientific Reportsに掲載されている。大上段に構えた魅力的なタイトルで「Unpeeling of the layers of language: Bonobos and chimpanzees engage in cooperative turn-taking sequences (言語の基盤を求めて:ボノボとチンパンジーは共同的発話のやりとりを行う)」だ。
研究ではボノボとチンパンジーの集団を、異なる4箇所で観察して、親子が一定のジェスチャーの後、親の背中に子供が乗って移動が起こる状況を捉えて、どのようなコミュニケーションが存在するか調べている。コミュニケーション能力は脳回路に依存するが、これを基盤にシンボル化された行動パターンは各個体が学習する。したがって、特定の最終行動(この研究の場合は親の背中に乗って移動が始まること)がシンボル化されたジェスチャーは、動物種ごとに違うし、またそれぞれの群れで異なっている。それでも同じ最終結果を生み出す行動パターンには共通性が見られるはずだ。この共通の行動パターンを例えば「向き合って見つめ合い、それに答えるように手を伸ばし」と要素分解し、各要素と最終行動との回帰率を計算している。幸い、この論文はオープンアクセスで、行動のビデオも閲覧できる。面倒な話をするより、このビデオを見て貰えば、言葉こそ出ないが、親から、あるいは子供から話が始まり、相手が答え、最終的に子供が背中に乗って移動が始まる様子がよくわかる。このビデオに、自分でセリフをかぶせてみればいい。「他所に行こうよ」「今行くの」「そう今」「わかった行こう」。人間なら言葉で表現するやりとりが、ビデオを見ると確かにジェスチャーで交わされているのがわかる。そしてこのパターンは、ボノボとチンパンジーでかなり違っているだけでなく、住む場所にも影響されたパターンが存在している。また反応速度や対話の成立する距離はボノボの方が人間に近い。 話としてはこれだけで、「結局現象から推論しているだけだ」と厳しい評価もあるかもしれない。しかし、親子という関係で生まれたコニュニケーションに着目した点で説得力のある研究になっている。実は私も、言語起源については著者らと同じ考えを持っており、生成文法派ではない。とはいえ、このような観察研究の次の一手はなにか、この点についても面白い研究を期待して論文を漁っている。