信頼するブレーンもいるはずなのに、経済学者を呼んで「お勉強」というのも、確固たる政策がないのかと心配になる。権威を笠に着るのはコンプレッスの表れだ。しかも、お勉強の結果を、よせばいいのにサミットに提出して失笑を買ったようだ。そして、「お勉強」の結論が、絶対にないと明言した消費増税を延期し、財政出動で需給ギャップを埋めるというのも、無策の証明だ。しかも、失敗の原因は他国経済の下振れと言われてしまうと、我が国は独立国かと耳を疑う。
政策を動員して、あらゆる事態に備えるのが政治ではないのか? 需給ギャップを名目に政府が借金を気にせずお金を使う「政策?」もこれまで延々と続けられてきた。それでもデフレ防止に失敗したことについては、お金の使い方が足りなかったと総括されてしまうと、この先どうなるのか本当に心配だ。
安倍内閣が指摘した経済恐慌を匂わす指標も、政策との関係のない指標が多い。昨年ベストセラーになったトマピケは、限界税率が下がってお金持ちが富を独占しているピークが恐慌の兆候だと述べている。すなわち、不況前は一部の人に最大の富が集中しているときだ。これが正しいなら、税制改革こそ不況阻止につながる政策になる。
いずれにせよ富が一部に集中した時不況に襲われて最も困るのは、余力のない一般庶民で、これを守る政策が政治家の腕の見せどころではないのだろうか。
前置きが長くなったが、そんなことを教えてくれるロンドン大学からの論文を今日は紹介したい。タイトルは「Economic downturns, universal health coverage, and cancer mortality in high-income and middle-income countries 1990-2010: a longitudinal analysis (1990〜2010年の高所得国、中所得国での経済悪化、国民皆保険、そしてガン死亡率)」で、5月25日号のThe Lancetに掲載された。
研究は、様々な統計データが公表されている高所得国、中所得国における、年度ごとの各ガンによる死亡率と様々な経済指標について多因子回帰分析を行った単純な研究だ。しかし、不況から国民を守る政策とは何かを改めて知ることができるタイムリーな研究だ。
結果は2008年リーマンショック後の経済不況で失業が増えると、肺がんを除く全てのガンで死亡率が上昇する。特に治療可能なガンで死亡率が上昇することが明瞭に現れている。この傾向は高所得国も、低所得国も同じで、リーマンショックが世界的不況だったことがよくわかる。計算すると、リーマンショックにより約26万人のガン患者さんが、失わなくても良い命を失ったことになる。
では政策介入余地はないのか?この条件で、この連関を断ち切るための条件を探していくと、ついに国民皆保険制度の有無でグループ分けをすると、国民皆保険制度のある国だけリーマンショックによるガン死の上昇が見られないことが明らかになった。すなわち、我が国でもガン死の上昇は食い止められたことになる。一方、この不況の源となったアメリカでは、不況で多くの人が医療保険から締め出され、ガン死が上昇した。
当たり前のことだと誰もが納得する結果だが、他国経済に影響されず国民を守ることとは、基本的権利の格差解消であることがよくわかる論文だ。21世紀を迎えたあと公的債務残高は倍増している。私たちを守ってくれる国民皆保険は維持できなくなるのではと心配している今日この頃だ。ぜひ空虚な言葉と約束でない、わかりやすい政策を語ってほしい。
国民皆保険の維持は危機に瀕しております。
厚生年金逃れの問題の顕在化、一号保険の未加入・未納、三号保険の優遇、基礎年金財源の国庫負担率の問題など、これらを総合して消費増税(年金目的税)と併せた議論が必要なのに、相変わらずの場当たり政策で不満がつのります。10%でも足りないというのに。。。
同じことが心配で思わず筆をとりました。