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6月23日:モーツアルトはお好き?(ドイツ医師会雑誌国際版6月号掲載論文)

2016年6月23日
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   2年前高野山大学が大阪で毎年開催している一般向けの講演会で話をしたことがある。「生物学の成り立ち」などと堅い話をして、あまり受けなかったが、この講演会のプランナーであった京大医学部の大先輩、村上和雄筑波大学名誉教授は、心と体の関わりを面白おかしく話され、大受けしていたのを覚えている。この時村上さんは「笑いの身体的影響」についての自らの実験の話をされた。一般の方に昼食後、初日は「糖尿病のメカニズム」について話をし、2日目には同じ時間に生でコンビ漫才を聞かせた後血糖の上昇を調べ、漫才を聞いて大いに笑った場合、医学の講義を聞いた時と比べて、血糖の上昇が著明に抑制できたという結果だ。茶目っ気の多い村上先生ならではの実験だが、決して話題のための実験ではなく、論文として発表されているのを知って感心した。
   今日紹介するドイツ・ルール大学からの論文も同じ様に「心と体」の問題を、今度は音楽について調べた論文でドイツ医師会雑誌国際版6月号に掲載されている。タイトルは「Cardiovascular effect of musical genres(心血管に影響する音楽ジャンル)」だ。
  研究では平均年齢47歳、平均血圧が124/77mmHgの健康人120人をランダムに2グループに分け、片方にはモーツアルト交響曲40番、ヨハンシュトラウスワルツ集、そしてスウェーデンの音楽グループABAのアルバムを順不同に聞いてもらい、それぞれのジャンルを聞いた前後の血圧、脈拍数、そして血清コルチゾール濃度を調べている。対照群は静かな部屋で安静にしてもらった後、同じ検査を受けている。
  結果は全ての検査で、音楽を聞いた方が静寂より良い効果がある。血圧と脈拍に対しては、モーツアルトの交響曲が最も高い効果を示し、収縮期圧で4.7mmHg、脈拍数では毎分6回程度低下する。次に効果が高いのはヨハンシュトラウスで、ABAの音楽は静寂よりは効果があるが、モーツアルトやヨハンシュトラウスより少し劣るという結果だ。
    話のネタとしてはわかりやすいし、おそらく誰もが納得できる結果だと思うが、村上先生の実験も含め、この様な研究を「話題・ネタ」で終わらさないことが科学者にとっては重要なことだ。
   デカルトの2元論以来、科学者は「心」と「体」を分離して、一般の日常世界とは異なる生命科学領域を育成してきた。ただ、当時の「心」は「脳」という言葉でずいぶん置き換わっている。今日紹介した2つの話も、実際には「脳」と「体」との関係に変えることは簡単だろう。とは言え、「脳」の経験する歴史の違いが「心」になり、脳科学永遠の課題「私・自己」になる。そう思うと、人工知能研究にとって最も重要な課題は、人工知能が自己を持つ過程の解明ではないかと思う。この時、血糖検査や血圧を計れない「体」のない人工知能で、本当に自己が成立していることがわかるのか、興味が尽きない。   

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