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7月28日:地衣類についての新説(7月21日Scienceオンライン版掲載論文)

2016年7月28日
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   異なる種の見事な共生として常に例に挙げられるのが地衣類だろう。通常、カビやキノコの仲間。子嚢菌と光合成をするパートナーになる藻類からできていると考えられてきた。
   今日紹介するグラスゴー大学からの論文は、地衣類では子嚢菌一種類だけが菌類の主体となっているとするこれまでの通説を覆し、実際には2種類の菌類が光合成を行う藻類と共生していることを示した論文でScienceオンライン版に掲載された。タイトルは「Basidiomycete yeasts in the cortex of ascomycete macrolichen (Basidiomycete(担子菌)はascomycete(c)からなる大型地衣類の皮質に存在している)」だ。
  地衣類を見たことがないという子供達も今は多いかもしれない。木の幹に張り付いている葉やヒゲの形をした生物で、上に述べたように菌類と藻類が一つの個体を形成する共生生物だが、例えばハリガネキノリ属というように地衣類としての名前も持っている。
   私も知らなかったが、地衣類の研究を阻む大きな難関は実験室で地衣類を培養することができなかったことで、この原因として実際にはこれまで知られていない生物が共生のために必要ではないかと考える人が多かった。
   この研究では色の違う2種類の全く色の異なるBryoria(ハリガネキノリ属)の遺伝子発現を調べ、色の違いは子嚢菌とパートナーを組む藻類の種類の違いとして説明がつかないことに気づき、色の違いが決まる原因を探索していた。その結果、地衣類は子嚢菌だけでなくもう一つの菌類basidiomyceteから構成されており、色の違いはこのbasidiomyceteの種類の違いによることを明らかにした。すなわち、これまで2種類の生物の共生と考えられてきた地衣類には2種類の菌類と藻類からなるより複雑な種類が存在することがわかった。
   次にこのような構成が一般的なものか、あるいは最初調べた2種類の地衣類だけに適用されるのか、モンタナ州に生息する様々な地衣類の遺伝子を調べ、調べた全ての地衣類で同じように3種類以上の共生が認められることが明らかになった。
   なぜ今までこんなことが発見されなかったかについては、PCRに用いられる鋳型のバイアスのせいではないかと想像している。
  次の問題は2種類の菌類が地衣類の体のどこに存在するかだが、in situ hybridizationを用いて、basidiomyceteが最も外側の皮質を形成し、色の違いになっていることを明らかにしている。
   話はこれだけで、最初読み始めた時、ついに実験室で地衣類の培養が可能になったかと期待したが、ここまで研究は進んでいないようだ。しかし、構成成分が明らかにならないと培養は不可能で、その意味では大きな一歩と言えるだろう。キノコのような複雑な形態が単純な菌類からどのようにできるのかは面白い問題だ。
   また、面白いだけでなく、「私たちを魅了する松茸の培養にもつながるだろう」などと、すぐ商売に結びつけるのは品のない考えかもしれない。

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