今日紹介するエモリー大学からの論文もそんな論文の一つで8月2日Natureオンライン版に掲載された。タイトルは「Defining CD8T cells that provide the proliferative burst after PD1 therapy (PD1治療によって急速に増殖するCD8T細胞を定義する)」だ。
この研究はヒトのCD8T細胞がCXCR5ケモカイン受容体陽性と陰性のポピュレーションに別れるという最近の発見に端を発し、慢性ウイルス感染症に対するCD8T細胞でも同じことが起こるのか確認する実験から始まっている。この目的に、慢性のウイルス感染症モデルとしてこれまで最もよく研究されているLCMVをマウスに感染させ、LCMV抗原に反応するCD8T細胞を回収して調べたところ、確かにCXCR5陽性と陰性に分かれることを確認する。
あとは、各ポピュレーションの特徴を詳しく調べ、
1) CXCR5 +は慢性感染だけで出現すること、
2) CXCR5+細胞は刺激を受けるための様々な分子を発現していること
3) 一方CXCR5-細胞は細胞障害性の分子を強く発現していること、
4) CXCR5+細胞はリンパ節や脾臓の濾胞に居座って、幹細胞あるいは免疫記憶細胞の役割を担い、そこで分化したCXCR5-細胞が抹消に移動してキラーとして働くこと
などを明らかにしている。
ここまでは「なるほど」と納得して読み進むが、最後に抗PD1抗体を投与してどの細胞が増殖するかを調べると、リンパ節濾胞に存在するCXCR5+型のCD8T細胞だけが急速にリンパ濾胞で増殖し、この程度はリガンドのPDL1に対する抗体を投与した時よりはるかに強いことを示している。また、この急速な増殖にTCF1という転写因子が必須であることも示している。
この結果は慢性ウイルス感染モデルでの話だが、同じことがガンにも言えるなら、PD1抗体の効果はガン局所に浸潤する分化型CD8T細胞ではなく、リンパ節や脾臓の濾胞に存在する記憶T細胞に効くことになる。だとすると、どの患者さんに抗体が効くかまた違った観点から調べる必要が出てくる。
まだまだ私たちはチェックポイント阻害治療の全像を掴みきっていない。