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8月10日:理系教員の男女格差の原因をあぶり出す:フランスの事情(7月29日号Science掲載論文)

2016年8月10日
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    世界フォーラムが毎年発表している男女格差ランキングで2015年、我が国は101位という有様だが、女性進出先進ヨーロッパの中でもフランス、イタリアは、それぞれ、57位、80位と褒められたものではない。この状況を改善する対策を講じるためには、様々な領域で綿密な調査を行い、ジェンダーギャップが生じる原因を特定する必要がある。
   今日紹介するフランスのパリ経済大学からの論文は、フランスならではの方法で大学理科系の教員数の男女格差が生じる原因について迫った研究で、7月29日号のScienceに掲載されている。タイトルは「Teaching accreditation exams reveal grading biases favor women in male-dominated disciplines in France(教員資格認定試験の検討から、フランスで男性優位の領域ほど女性が試験で優遇されている傾向が明らかになった)」だ。
   2014年の5月、Scienceは「格差問題」を特集し、格差についての科学的研究を重視していく姿勢を見せたが、この論文からもこのScienceの編集部の強い意志が感じられる。
   この研究が対象にしている男女格差は、大学の理科系の教員や研究者の数だ。我が国もそうだが、フランスでも男性優位社会が続いており、数学や物理の女性教員は20%程度にとどまっている。この原因についての一つの仮説では、採用時に男女差別が行われると考えている。一方、男性優位社会という先入観が、この分野へ女性が挑戦する気持ちを妨げているのではないかという指摘もある。ただ、男女比の統計調査や、インタビューなど従来の手法では、なかなか決定的な結論を得ることは難しかった。
   この研究は、フランス特有の教員資格認定試験を利用することで、採用時の男女格差の有無について科学的に検証できるとする着想が元になっている。
  この論文を読むまで私も全く知らなかったが、フランスでは大学などの高等教育、中等教育、初等教育各レベルで、教員になるための資格認定試験を行っている。この中で大学教員の試験がアグレガシオン (我が国にはこのような試験はない)、中等レベルの試験がCAPESと呼ばれている。それぞれの試験では統一筆記試験と、面接官による面接が行われ、数学、物理、化学、哲学のように分野別に応募が行われる。
    研究では2006年〜2013年のアグレガシオンと、CAPESの筆記試験と面接試験の点数を比べ、二つの試験の点数の差を指標にして、面接で女性優遇・差別が行われるかを調べている。
   すなわち、筆記試験では男女差別が起こることはないが、面接試験では当然面接官の判断が入るため、男女差別が起りうることを利用して、採用時の男女差別の有無を数値化することに成功している。この指標では全ての女性が面接で優遇された場合が+1、逆に差別された場合が-1になる。
   結果だが、アグレガシオンでの指標は、物理、数学の+0.15を筆頭に、男性優位な分野ほど面接で女性が優遇されていることがわかった。0.15という数値はかなり優遇されていることを示している。一方、言語学や文学のように現在女性優位の分野では、逆に男性が優遇されていることも明確になった。
   もちろんこの結果を正しく解釈するための様々な検討を行った上で、面接では「格差を解決したい」という面接官の意識が自然に作用して、女性を優遇していると結論している。従って、理科系での男女格差を改善するためには、採用試験の見直しより、それ以前の教育で、決して採用時に女性が差別されることはないことを全員が認識して、女性の挑戦を促すのが良いと提言している。
   もちろん同じような制度を持たない我が国にこの結果をそのまま当てはめることは難しいが、明らかなことは「男女格差是正」というスローガンを全員が唱えておれば、自然に是正する方向への選択が行われることを示している。
これが正しいとすると、わざわざ「女性の輝く社会」などと言葉を飾ると、かえって逆効果かもしれない。

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