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8月13日:SLEのIL-2による制御(8月8日Nature Medicineオンライン版掲載論文)

2016年8月13日
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    私がまだ臨床にいた頃、自己免疫疾患といえば患者さんの病気を進行させないよう副腎皮質ホルモンを加減することしか方法はなかった。臨床を離れたので効果を実感することはないが、その後TNFやIL-6など炎症のエフェクターとして働いているサイトカインに対する抗体療法が現れ、病気によってはほぼ制御可能になったとすら言えるようになっている。
   自己免疫疾患制御のためにもう一つ期待されている治療法は、現在大阪大学の坂口さんが発見した抑制性T細胞(Treg)の活性を高めて炎症反応を抑える方法だが、多様な種類のT細胞が同じ抗原を軸に相互作用している複雑なネットワークに介入するのは、エフェクター分子を標的にするのに比較して難しい。そんな中で比較的単純な方法と期待を集めているのが、比較的低い量のIL-2を使ってTreg活性を選択的に高める方法だ。Tregが高いレベルのIL-2受容体CD25を発現していることを考えると論理的な方法に思える。
   今日紹介する北京人民病院とオーストラリアモナーシュ大学からの論文はこの方法を最もメージャーな自己免疫病SLEで試した研究で8月8日発行のNatureオンライン版に掲載された。タイトルは「Low-dose interleukin-2 treatment selectively modulates CD4+T cell subsets in patients with systemic lupus erythematous(低濃度IL-2治療はSLE患者のCD4+T細胞のサブセットを選択的に変化させる)」だ。    研究では40人のSLE患者さんに比較的低い濃度のIL-2を皮下投与、2週間のコースを3回繰り返すプロトコルを施行している。そして、承諾のとれた23人について、詳しいT細胞サブセット検査を行い、低濃度 IL-2がCD4要請細胞だけに作用し、結果としてTregが上昇し、炎症性のT細胞は減少することを確認している。    2人が脱落して計画どおり最後まで治療を終えた患者さんは38人だったが、90%が病状の改善を示し、この結果、これら90%の患者さんでは副腎皮質ホルモンの投与量を減らすことに成功している。
   また、白血球減少に悩んでいた患者さんの90%以上で、白血球数が正常化し、また血小板減少症を示す患者さん全員がやはり正常化している。最後に副作用も、注射部位の発赤や風邪用症状程度で、問題ないことを示している。
   以上結論的には、期待どおりTreg増加による自己免疫病治療が可能であることを示す結果で、是非さらに長期で大きな規模の治験を進めて欲しいと思う。また、T細胞サブセットのデータから見ても、SLEだけでなく、臓器移植で免疫抑制剤を減らすのにも使えるのではという印象を持った。
   臨床への登場が遅れていたTregの利用がゆっくりではあっても進んでいることがわかる研究だった。

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