ガン細胞が遠隔組織で血管内皮のバリアーを越えるとき、白血球などと同じように血管内皮同士の接着部位をすり抜けるとこれまで考えられてきた。今日紹介するドイツ・バードナウハイムにあるマックスプランク心肺研究所からの論文はなんとガン細胞が血管内皮を殺して血管に穴を開ける可能性を示す研究で8月11日号のNatureに掲載された。
タイトルは「Tumor cell induced endothelial cell necroptosis via death receptor 6 promotes metastasis (腫瘍細胞によりDR6を介して誘導される血管内皮のネクロプトーシスにより転移が促進される)」だ。
この研究は極めて単純だ。試験管内で、血管内皮とガン細胞を混合して相互作用を調べているとき、血管内皮がネクロプトーシスと呼ばれる特殊な死に方をすることに気づく。
同じ現象がマウス体内でも起こっていることを確認した後、あとはこの特殊な死に方を誘導するシグナル経路を探索し、DR6と呼ばれる受容体を介して血管内皮のネクロプトーシスが誘導されることを発見する。DR6が体内でも働いていることを調べるため、この分子を欠損させたマウスや、あるいはこの分子に対する抗体を注射して転移を調べると、DR6が機能しないと転移が強く抑えられることを明らかにしている。
最後にこの受容体に結合するリガンドを探索し、アミロイド前駆体が癌に発現して血管内皮のネクロプトーシスを誘導することを、この分子を欠損させたガン細胞が転移しなくなっているという実験から結論している。
話はこれだけで、残念ながら、人間の臨床例でも同じような分子の発現やネクロプトーシスが認められるのかデータを知りたいところだ。おそらく研究は進んでいるだろう。とはいえ、癌の転移についてこれまで全くなかった新しい視点を示した意義は大きい。
最後になるが、この研究が行われたバードナウハイムのマックスプランク研究所は血管研究では長い伝統を持っていた。ただ、Werner Risauが亡くなってから低迷していたが、新しい人材をリクルートして急速に業績を伸ばしている。血管研究では今後も目が離せない。