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8月18日:RNAワールド完成へもう一息(米国アカデミー紀要オンライン版掲載論文)

2016年8月18日
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    個人的な話になるが、今17世紀から21世紀の近未来に続く有機体研究についてまとめようとずっと材料を集め、考えを書きとめ続けている。この1年ほどはずっと地球上での生命誕生のシナリオを自分なりに理解できるかについて集中してきた。このときの資料や、考えたことについては現在顧問をしているJT生命誌研究官のホームページに掲載し、ようやく終わったところだ。すなわち、生命誕生が自分の頭の中でシナリオとして描けるようになった。とはいえ、シナリオで考えた一つ一つのステップの実現可能性については検証が必要だ。ただ、嬉しいことに21世紀に入ってこの検証が急速に進んでいると実感を得ている。
   今日紹介するスクリップス研究所からの論文は、生命が複製という能力を獲得する過程の実現性について大きな一歩を記した研究で米国アカデミー紀要オンライン版に掲載された。タイトルは「Amplification of RNA by an RNA polymerase ribozyme (RNAポリメラーゼ活性を持つリボザイムによるRNAの増幅)」だ。
   生命の誕生を考えるとき、有機物の持続的生産、閉じた型でのエネルギーの持続的供給、複製、自己性の獲得、シンボル記号性を持つ情報の誕生などが条件として考えられる。このうち複製については、情報と機能が共存できるRNAワールドでまず完成した後、現在の形に変化したと考える人が多い。そしてこのRNAワールドを支える鍵になるのが、RNAポリメラーゼ活性を持ったリボザイムだ。これが完成すると、全てのRNAは複製されるようになる。
   リボザイムがRNAポリメラーゼ活性を持ち得ることは20年も前に報告されている。私もこの論文をもとに、RNAワールドの複製は可能だとしてきた。しかし、RNAワールドのもう一つの条件は、RNAの複雑な3次構造による酵素活性の発現だ。残念ながら、これまで合成されたポリメラーゼはほとんど伸びきったモデルRNAは複製できても、3次構造を持ったRNAを一本鎖へとほどきながら複製するところまではまだまだ至っていなかった。
   この研究では、これまでの研究で到達したRNAポリメラーゼ活性を持つリボザイムの5’端に、合成させたい鋳型RNAとペアリングできるプライマーを結合させる。次にリボザイムのRNAポリメラーゼ活性を使って、鋳型に従って5’端を伸長させ、こうした伸びたRNA部分の立体構造をもとに、正確にポリメラーゼ反応を行ったリボザイムを選択するというサイクルを繰り返して、リボザイムを進化させる。このサイクルを24回繰り返して突然変異を蓄積させ完成したリボザイムについてその活性を調べている。
   こうして進化したリボザイムは、進化前のリボザイムと比べてなんと100倍高い効率のポリメラーゼ活性を持ち、複雑な3次構造をとるRNAも複製でき、収率はまだ0.07%と低いものの、最も複雑な3次元構造をとるtRNAの複製が可能になっている。
  さらに、PCRのように熱を加えて3次構造を物理的にほどく方法を用いると、RNAの増幅も可能で、持続的複製に一歩近づいている。
  今後、さらに長いRNAが複製できるようになり、最後に自分自身を全て複製できるように試験管内で進化させることが次のステップだろう。この研究の重要性は、進化を達成するための選択の方法を開発した点だ。時間はかかっても、ゴールは目の前に見えてきた気がする。    RNAワールド完成が近いことを実感する。

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