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8月21日:風邪ウイルスはラクダ起源?(米国アカデミー紀要オンライン版掲載論文)

2016年8月21日
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    「ちょっと鼻風邪をひいた」などといつも話にのぼる風邪は、様々なウイルスによる複数の病気の集まりで、症状は似ていても一つの病気ではない。ただ一年を通してかかる心配のある風邪は、ライノウイルスかコロナウイルスが原因であることが多い。
   一般的にコロナウイルスによる風邪にかかっても寝ておれば治るが、最近SARSとMERSと呼ばれたタチの悪いコロナウイルス感染症が発症して、一躍このウイルスの監視体制の必要性が問題になってきた。このうちSARSは吸血コウモリの中で病原性を高めたという説が広く受け入れられている。
   一方昨年韓国で流行して大きな騒ぎになったMERSは中東が起源であることから、ラクダの中で強い病原性が獲得されたと考えられている。
   今日紹介するドイツボン大学を中心とした国際チームからの論文は、ラクダがMERSだけでなく一般の風邪の原因となるコロナウイルスのキャリアーになっている可能性を調べた論文で米国アカデミー紀要オンライン版に掲載された。
   まず研究ではサウジアラビアとケニアで飼われているラクダが、風邪コロナウイルスの代表として選んだHCoV-229Eに近いウイルスに感染しているかどうかをPCRを用いた遺伝子解析を用いて調べ、ほとんどのラクダがウイルスに感染しており、また感染しても何の症状もないことを確認している。
   次にこれらのウイルスを、ヒトのコロナウイルスの分離に使う細胞株に感染させてウイルス株を分離、その後の研究に使っている。
   遺伝子の比較から、ヒトの風邪の原因となるコロナウイルスはラクダから分離されるコロナウイルスと近縁であることが明らかになった。実際、感染に使う受容体や、インターフェロン感受性など、ラクダ由来コロナウイルスは風邪の原因になるコロナウイルスと多くの性質を共有している。しかし、気管や腸管の上皮に感染させる実験で、ほとんど感染できないことから、これがラクダでウイルスが病気を起こさない原因ではないかと推察している。
  この結果が示す一番重要な点は、ラクダの体内でウイルスは病原性もない代わりに免疫から逃れ、遺伝子変異を蓄積するポテンシャルがあることだ。この結果、急に上皮感染可能な株が現れ、MERS騒ぎにつながる可能性が大いにある。
   現在鳥インフルエンザについては、鳥が感染しているウイルスを定期的に追跡して、大流行の発生を未然に食い止めようとする国際的監視体制が整備されている。おそらくラクダとコロナウイルスについても、同じような監視体制が必要だろうと思う。
   ラクダが砂漠のロマンを表現する時代は終わっている。

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