タンパク質にユビキチンを添加して印をつけ、印を指標識としてタンパク質を分解する過程は、細胞の活動の様々な場面で登場し、生きるために欠くことができない。この過程は、ユビキチンをポリユビキチン化して標的タンパクに結合させる過程から始まるが、炎症や免疫シグナルの中核分子NFkB活性化経路ではメチオニン1番目のメチオニン(M1)を介したポリユビキチンが特異的に関わっており、このM1ポリユビキチン合成酵素、及びこれを特異的に分解する脱ユビキチン化酵素OTULINによりM1ポリユビキチン量のバランスが取られている。
今日紹介するイギリスバーミンガム大学からの論文はこのOTULIN遺伝子変異により発生する悪性の自己炎症性疾患の発症メカニズムを解析した論文で8月25日号のCellにオンライン掲載された。タイトルは「The deubiquitinase OTULIN is an essential negative regulator of inflammation and autoimmuneity (脱ユビキチン化酵素OTULINは欠かすことのできない炎症と自己免疫抑制因子)。」
この研究は同じ家系に発生した3人の自己炎症性疾患の患者の遺伝子解析から始まっている。このうち2人はステロイドを始め様々な抗炎症剤治療に反応せず、16ヶ月、5歳で亡くなるが、抗TNF抗体治療を始めた一人は症状が改善し10歳になる現在も生存している。
遺伝子解析の結果OTULIN分子の272番目のロイシンがプロリンに変異した遺伝子が原因の劣性遺伝病であることを突き止めた。この変異の結果OTULIN遺伝子活性は1000−10000倍低下する。 遺伝子がわかったので、次にこの患者の病態を理解する目的で、様々な細胞でOTULIN遺伝子を欠損させることができるモデルマウスを用いて、この変異による自己炎症性疾患メカニズムについて解析している。
この実験から、
1) 成長してからでもこの遺伝子が全ての細胞で欠損すると、ほとんどその日のうちにマウスは死亡する。
2) 変異マウス骨髄を正常マウスに移植し、血液だけで遺伝子欠損が起こるマウスを作成すると、病気を再現できる。
3) この欠損により血液細胞が様々なサイトカインを多量に産生し、サイトカインストームの状態になる。
4) 抑制のないサイトカイン産生は顆粒球やマクロファージのみでおこり、リンパ球は比較的正常。
5) リンパ球で持続炎症が起こらないのは、OTULIN欠損によりM1ユビキチン合成に関わる分子が低下してM1ユビキチンの量が上昇しないため。
6) OTULIN欠損は予想通りNFkBの持続的活性化を誘導するが、この結果誘導されたTNFが同じ細胞のNFkB経路を活性化するサイクルが回ってしまう。
7) 抗TNFによりこのサイクルを切ると、炎症を治療できる。
が明らかになり、病気発症のメカニズムをほぼ解明するのに成功している。
ユビキチン化過程の重要性を再認識するとともに、小児の病気の原因がわからないときは、国費でエクソーム検査ができるようにすることの重要性がよくわかる論文だった。