今日紹介するイングランド公衆衛生局からの論文は、治療開始後30日以内に亡くなるケースを分析することで、副作用の面から調べるだけではわからない化学療法の課題を明らかにしようとした研究でThe Lancetオンライン版に掲載された。タイトルは「30-day mortality after systemic anticancer treatment for breast and lung cancer in England: a population-based observation study (乳がんと肺がんに対するシステミックな抗がん治療による30日以内の死亡:集団ベースの観察研究)」だ。
この研究の基盤は2012年から始まり、2014年には英国のすべての医療システムに課せられたガンに対する化学療法や抗体治療の概要や経過についての報告義務により集まったデータベースだ。このデータベースの本来の目的は、治療の長期予後の判定だが、もちろんこの研究のように短期の様々なデータを分析することも可能だ。乳がんで約23000人、非小細胞性肺がんでほぼ1万人のデータがすでに利用できるというのは羨ましい。
結果だが、化学療法を受けた乳がん患者さんの2%、肺がん患者さんの7%が治療開始後30日以内で亡くなっており、化学療法が命を縮めるのではという患者さんの不安をある程度裏付けている。
特に根治が難しく、病状を緩和する目的で治療を受けた場合、乳がんで7%、肺がんで10%が30日以内に亡くなるという結果は、根治が難しくとも、がんを少しでも小さくしようと化学療法を使って見ることが普通に行われている現状を考えると看過できない数字だ。
研究では30日以内に死亡するリスクについて様々な分析を行っているが、主だった点だけ紹介すると、
1) 根治療法として化学療法が行われる場合年齢が高いほど30日死亡率が高いが、症状改善のために行うケースでは若年者の方が30日死亡率が高い。
2) 以前に化学療法を経験した患者さんは30日死亡率が低い。
3) 一般状態が悪いと当然ながら30日死亡率は上がる
4) 根治療法として化学療法を行う肺がん患者さんの場合、肥満気味の方が30日死亡率が低い
などだ。
それぞれの現象について説明はしているが、結果を解釈するためにはまだまだデータが少ない。今の所は現象として受け止めれば良いだろう。
もう一つ重要な発見は、30日死亡率が高い施設や団体が発見されたことで、がん登録の義務化とデータ開示の重要性を示している。
この論文を読んで、化学療法の安全性をさらに高める努力が医療に課せられた課題であることがよくわかった。我が国のがん登録データについても大至急このような調査が行われることを願っている。