今日紹介するミネソタ大学からの論文は、現代化、都会化が腸内細菌に及ぼす影響について極めてユニークな視点で迫った研究で9月13日号の米国アカデミー紀要に掲載された。タイトルは「Captivity humanizes the primate microbiome(霊長類の細菌叢は飼育によりヒトに似てくる)」だ。
タイトルに示されているように、もし人間の都会化、現代化が腸内細菌叢に大きな影響を持つなら、同じ傾向が動物園の猿にも見られるのではと着想したのがこの研究の全てだ。
実際には、ホエザルと尾長ザルの便を、野生、保護区、そして様々な動物園から集め、細菌叢を16SリボゾームRNAの遺伝子配列から調べ、動物を人工的に飼育することの影響を調べている。
尾長ザルで一番詳しく調べられているが、結果は野生、保護のための飼育、そして動物園での飼育と、野生が失われるに従って、人間の細菌叢に近づいてくるという結果だ。
この変化の主要部分は、BacteroidesとPrevotellaという野生の霊長類には見られない細菌の割合が上昇することだが、これ以外にも多くの細菌が変化している。
面白いのは、ホエザルの飼育により起こる変化のそのままの延長線上に、都会化していない人間、そして都会化した人間がいることだ。一方、尾長ザルの方は動物園での飼育により細菌の種類が大きく再構成している点だ。
この変化の原因を様々な要因について調べているが、結局食事の変化に絞られている。動物園の餌と、野生の餌の比較を中心に、違いを詳しく調べている。その結果、
1) 餌の多様性が動物園の飼育では極端に低下する、
2) 摂取植物繊維の量が減る、
3) 新しい植物摂取の指標である葉緑体などの植物DNAが飼育により低下する
などを明らかにしている。もちろんサルは常に植物性の食事をしているので、単純な植物繊維の量だけでなく、多糖体中心の植物繊維への変化が最も重要な要因だとしている。
具体的な結果は地味な感じで、歯切れが悪い感じがする。やはりこの研究のハイライトは動物園のサルを対象に選ぼうと考えた着想の妙にある。