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9月26日:脳画像の変化を集めるコホート研究(Nature Neuroscience オンライン版掲載論文)

2016年9月26日
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    MRI脳画像は、現在多くの神経系疾患で、信頼の置ける重要な検査の位置を占めるようになってきた。それでも、アルツハイマー病をはじめとして、初期段階の変化を把握して診断するのは難しい。
   幸い、画像取得については、機能MRI、テンソルMRI、T1強調画像、T2強調画像、SWIなどと続々新たな方法が開発され、例えば微小梗塞などの変化を高感度に検出できるようになった。したがって、次の段階はこの画像と、ゲノムを含む他の身体に関わるデータを統合して対象を追い続けるコホート研究を進め、疾患発症までの脳画像データベースを作ることが重要になる。この認識のもと、21世紀に入ってからドイツ、オランダ、英国で脳画像を経時的に集めるコホート研究が発足し、今も続いている。
   今日紹介する英国オックスフォード大学からの論文は、現在も発展途上の英国コホートに関する経過報告でNature Neuroscienceオンライン版に掲載された。タイトルは「Multimodal population brain imaging in the UK biobank prospective epidemiological study(英国前向き疫学研究バイオバンクで追跡中の集団について様々な方法で撮影した脳画像)」だ。    すでに述べたようにこの論文は中間報告で、明確な結論があるというより、画像を含めたデータベースをどう構築するかについての様々なヒントを提供することが重要なポイントになっている。UKバイオバンクは健常人50万人のゲノムを含む高度な身体情報、医療情報を集め、将来にわたって疾患の発症などを追跡するコホート研究だ。英国は医療が完全登録制であるため、医療レコードとの連結が容易な点がこのコホートの特徴になっている。この枠内で、今年から10万人を目指したMRI画像を集める計画が公的支援で走り出した。すなわち、バイオバンクが時間とともに発展している。この中から2022年には1800人、計画が終了する2027年には8000人のアルツハイマー病が発症すると考えられており、大変だが極めて説得力のあるプロジェクトだ。
  ただ言うは易く、行うは難しで、10万人の画像を一定のマニュアルに従って取り続けるのは並大抵でない。この研究では、この目的のためのMRIを週七日休みなしに稼働するセンターを3箇所作り、これに対応している。さらに画像取得も徹底しており、通常のMRIだけでなく、機能MRI、拡散MRI、T1強調、T2強調、SWI画像を全て取得している。また、これを時間ロスなく進めるためのマニュアルを作成している。絵に描いた計画とはいえ、微に入り細に入り計画が策定されている。
   さらに難関は、画像解析だ。一回のデータ量は2Gに達する。現在もなお画像診断というと自動化からほどとおい。しかし10万人の画像となると、全く異次元のデータ処理技術が必要になる。この点については時間を変えて画像をとることで見られる変化をまず解析の中心において処理を行っているが、今後新しいインフォーマティックスが生まれれば、それを適用していくだろう。
  あとはこれまでに得られたデータから、肥満と喫煙の脳白質への影響と認知機能との相関などが示されているが、結論についてはもっと時間を待ったほうがいいだろう。この論文のポイントは、英国バイオバンクはさらに新しい分野を加えて発展し、情報処理技術開発の種になっているという点だ。要するに、最初からよく計画された画像データのコホート研究が英国でスタートし、ここから得られるデータは新しいインフォーマティックスを必要とするビッグデータになり、医療にとどまらない新しい科学技術分野へと発展するという壮大な計画についての論文だ。そして、大きな助成金が必要な計画を作るときの徹底性について本当によく学ぶことができる論文だ。
   翻って我が国を見ると、政府も鳴り物入りでビッグデータ解析技術が新しい産業の基礎であると推進しているが、肝心の革新的技術の開発を待つ質の高いデータなしに、革新的情報処理技術など生まれるはずがない。J-ADNIや東北メディカル・メガバンクなど確かに鳴り物入りの研究がスタートしたが、画像とゲノムは統合されないまま進んでいるし、満期を迎える前から再編成や縮小されても、発展させるという構想が見えてこない。実際、官制データベースでダイナミックに発展を続けている組織はあるのだろうか。助成金カット、縮小、再編、消失のコースをとった計画が多いのではないだろうか。このままだと、携帯電話と同じで、我が国のゲノム研究も、コホート研究も、5年経てばもう取り返しのつかないガラパゴス化の憂き目に遭っているような気がする。
  1. 大隅典子 より:

    西川先生、東北メディカル・メガバンクの画像データはゲノムと照合予定です。瀧先生が中心となって進めており、英国との連携も図っているように聞いております。

    1. nishikawa より:

      紹介したような英国と同じレベルの画像採取の計画があるのでしょうか?

  2. YM より:

    日本に帰国を考えた時に、JSTさきがけやら他のプロポーザルで大規模データ/rich data系のプロポーザルをしましたが、ごく一部を除いて生命系の研究者からの評価は総じて非常に低いものでした。視野が広い人に色々なかじ取りをしていただけると良いのですが、なかなか厳しいですね。。自前主義が強すぎるのが問題なのかなと思います。

    1. nishikawa より:

      自前主義:まさにおっしゃる通りだと思います。

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