今日同じタイトルで紹介するジョージア工科大学からの論文は、粘性の高い液体の中ではRNAの2次構造形成が遅れ、500塩基程度の長さなら、相補的な短い核酸配列(オリゴヌクレオチド)を用いて複製が可能であることを示した研究でNature Chemistryに掲載された。タイトルは「A viscous solvent enables information transfer from gene-length nucleic acids in a model prebiotic replication cycle(粘性の高い溶液により、生命のない世界で遺伝子のサイズの情報を伝達することができる)」だ。
この研究の目的は、高粘度溶液中で、RNAの2次構造形成を抑え、これにより維持される線状の一本鎖RNAを、相補的オリゴヌクレオチドでカバーし、最後に鋳型上でアッセンブルされたオリゴヌクレオチドをリガーゼで結合させてRNAが複製できることを示すことだ。研究では、このための条件を一つ一つ調べ、最終的に545塩基の長さを持つRNAの完全複製に成功している。ただ、詳細は紹介する必要はないだろう
残念ながら、この研究では大腸菌由来のリガーゼを用いてオリゴヌクレオチドを結合させているため、完全に生命非依存的に複製を行ったとは言えない。しかし、一部の脂肪酸などの有機分子が、RNAのポリメラーゼ活性やリガーゼ活性を持っていることが示されており(生命誌研究館HPより:http://www.brh.co.jp/communication/shinka/2015/post_000021.html)、またリガーゼ活性を持つリボザイムの存在も知られている。従って、この系を完全に無生物系へと変換することはできるだろう。
また、この研究では粘性を高めるためにglycolineを使っているが、生命以前の地球にこのような高粘度の溶液が存在し得るかも気になる。ただ、太陽などの熱で蒸発が起こると、水たまりで同じようなことが起こってもいいだろう。実際、多くの有機物合成に、同じような溶液濃度の上昇が必要になる。
今後は、例えばニック・レーンたちが強力に進めている熱水噴出孔での有機物やエネルギー合成過程を(彼のThe Vital Question 参照)、もう少し安定な原始のスープにつなぐシナリオが必要かもしれない。
しかし、生命誕生過程についての理解は急速に進んでいる。