元の記事は以下のURLを参照して下さい。
http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20131016-OYT1T00576.htm
読売新聞には、外国特派員からの科学記事がよく掲載される。今回の記事は、アメリカの自然史博物館からのカンブリア紀化石の研究を紹介した記事だ。この研究は、モンタナ州のカンブリア紀の地層から得られた蚊の化石の中に血液があるかどうかを調べた研究で、アメリカ科学アカデミー紀要オンライン版で発表された。4600万年前の蚊の化石から赤血球の痕跡を見つける事が出来ると言う結論だ。とは言っても、血液の形が見える訳ではない。鉄などの分子を調べるエネルギー分散型X線分光計と、田中耕一さんが最初に技術の可能性を開拓した、ToF-SIMS(飛行時間型2次イオン質量分析法)という質量分析法を駆使して、鉄を含むヘモグロビン由来蛋白が存在している事を示している。それが本当に血液から由来するのかを確かめるため、蚊の腹部からのサンプルと、他の場所からのサンプルを比べ、血液が吸収される腹部だけにこのシグナルが検出できる事を示している。はっきり言うとそれだけの仕事だが、進化の研究に、ゲノムだけでなく、あらゆるハイテク機器が利用されている事を知る事が出来る。記事では、ジュラシックパークの事が書いてあったが、琥珀に閉じ込められると100年経たなくともDNAが完全に分解してしまっている事は既にこのホームページで紹介した。
同じ日に、日本経済新聞も、日中米共同で中国の雲南省出土の、カンブリア紀の節足動物の化石についての研究を紹介していた。(http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20131017&ng=DGKDASDG1605E_W3A011C1CR8000 )10月17日号のNatureに掲載された論文だ。最近中国から出土する化石から、続々と新しい事がわかって来ている。どの本で読んだのか忘れたが、中国で見つかる化石は、残った骨と言うより、生きていた時そのままの形がはっきりわかる化石が多く見つかるようだ。今回の仕事も、そのような化石を、新しい技術で解析し、脳の分節化が起こっているかどうか調べた研究だ。ここで使われた新しい技術も、X線分散型分光計による分子分析と、形態を調べるX線断層写真だ。ここで明らかになった形態進化が、現在とどうつながるのかについてはまだ良くわからない。
過去の出来事について実験をする事は不可能だ。従って、残された痕跡を如何に科学的に調べるか以外に研究の方法はない。この目的に、最新の方法を使った挑戦が進んでいる事を実感した。記者の目としても、本当はここに注目して欲しかった気がする。しかし、我が国の状況はどうなのだろう。少し心配している。
読売新聞10月17日記事 4600万年前の蚊の化石に、謎の動物の血液
2013年10月17日